第2697話 センエースの拳。


「言われなくても分かっている。お前ほど優秀なサポート役を失うわけにはいかないからな」


「ほんと、頼みますよ……私が死んだら、嫁さん、泣くんで……私、嫁さんを泣かすのだけはNGなんで」


 そう言いながら、

 ヒッキは、12体のオーラドールと束になって、

 アクバートとドナにバフをかけまくっていく。


 無節操に、容赦なく、すべてのステータスを上昇させていく。

 サポート系の魔法の全てを習得しているとまで言われている天才。

 彼に本気でバフを積まれた者は、本来の実力の倍ぐらいまでは引き出せる。


「相変わらず、いい仕事だ」


 アクバートは、ヒッキのサポートを称賛してから、



「――それでは、はじめようか――」



 一気に、ウムルとの距離を詰めた。


「私が保有するコスモゾーンレリック、ムナガラーは、鉤爪タイプの近距離武器。敵の血を吸えば吸うほど、その敵に対する火力が増していく……という微妙な特殊効果しか持たないハズレ枠。装備すると、パワーとスピードがそれなりに上昇する。接近戦タイプなら使えないことはないコスモゾーンレリック。装備すると、存在値が930まで上昇する。他に何か聞きたいことがあれば、質問を受け付けるが?」



 挨拶代わりに『暴露のアリア・ギアス』を積みつつ、

 適切な連打をくりだすアクバート。

 とにかく、ムナガラーに血を吸わせようとするムーブ。

 冷静に、正確に、最善手を積んでいく十席の序列一位。


 そんな彼に、ウムルは、


「コスモゾーンレリックに関しては、普通に知っているから、聞きたいことなど何もない」


 サラリとそう言いながら、

 アクバートの猛攻に対して、


「――閃拳――」


 小粋なカウンターをいれていく。


「ぐふっ!」


 顔面に思いっきりストレートを入れられたアクバート。

 鼻血が噴出して濃いアザができる。


「……お、重たい一撃だな……」


「そりゃそうだろう。センエースの拳だ。軽いわけがない」


「なぜ……貴様に……『センエースの拳』が使える……」


「私は強いから、貴様ごときを殺すのに、暴露のアリア・ギアスを積む必要はない。だから、教えてやらない」


「……それは残念だ」


 ちなみに、

 アクバートが前衛で暴れている間、

 ずっと、ドナが中距離からウムルに対して、デバフと魔法攻撃を放っており、

 後衛から、ヒッキが、ずっと、アクバートとドナのサポートをしている。


 それはそれは、見事かつ完璧な連携であり、

 そこらの壊れたモンスター程度であれば、

 何十体というレベルで沸き散らかしたとしても、

 余裕で対処できるレベルの超越的なチームワークだった、

 ――が、ウムルには届かない。


 カンツにすら勝ってしまった化け物相手に、

 小粋な連携程度が通じるはずがない。


 『終始、遊ばれている』ということに気づいたヒッキが、


「あのウムルとかいうカス、想像を超えて強い! やばいやばいやばいやばい、やばいぃいい! これ、死ぬぅううう! 殺されるぅうう!」


「うるさいわね。というか、カンツの回復はまだ?」


「中心がぶっ壊されているので、なかなか難しいんですよ!」

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