第1633話 侵略戦争。


(数日前から各地で起こっている『奇妙な出来事』の『規模』と『程度』から鑑みるに……おそらく、転移したのは、この二人だけではない。数十人……あるいは、数百人という組織単位の異世界転移が行われたとみるのが妥当)


 庶民レベルでは、まだ、

 『違和感』程度にしか浸透していないが、

 五大家の情報網には、

 『各地で起きている異常』が、

 すでに、『明らかな不可思議』として取り上げられている。


 どのエリアも、全貌はまったく把握していないが、

 しかし、『何かが起きている』という事は察知している。


 ・行方不明になった複数人の要人。

 ・急激に上昇した景気。

 ・妙に高性能な身元不明者の台頭。

 ・荒らされている各地の遺跡や未開拓エリア。

 ・激減している一日の傷害系犯罪数。

 ・反比例して増加した大量の窃盗事件。


 ほかにも、無数に、

 『奇妙な出来事』が、

 『ここ数日の間』に、

 各所で確認されている。


(数百人単位の強大な力を持つ組織。それだけの組織が『今まで、バレることなく、裏に隠れていた』とは到底思えない……思えないというか、不可能。そんな荒唐無稽を念頭に物事を考えるよりも、むしろ、異世界から、『巨大組織』が転移してきた、と考えた方が、まだ、合理的と言える)


 そこで、ルルは、かつて読んだ『とある小説』のことを思い出す。


 『集団転移』を題材としているパニックホラー。

 『ゼノリカ』という超巨大組織が、

 この世界に転移してきて、

 全エリアに対して侵略戦争をしかけるというトンデモ小説。


 半年ほど前に、全宮学園の禁書庫で見つけた作品。

 非常に面白い内容だったため、

 今でも鮮明に覚えている。


 強大な力を持った三人の帝。

 そんな帝を支える五人の王。

 そして、忠実なる九つの華。


 優秀な支配者の下には、

 優秀な配下が集まる。


 『絶対の力を持った十七の神々』に付き従うのは、

 『数千という規模』の『怠け方を忘れたウサギ』たち。

 そのウサギたちの一人一人が、

 『五大家の血族に匹敵する超人』だというふざけた悪夢。


(ゼノリカほどメチャクチャな組織ではないだろうけれど……この二人の背後にある組織は、きっと強大。この世界に転移してきたのは、おそらく、数日前。……『現状』は、おおかた、各地に斥侯を送って内情を調査中ってところ……)


 あくまでも推測。

 その推測を裏付ける証拠は、さほどない。


 けれど、ルルは、自分の推測を前提として、

 思考を前に進めていく。


(この二人の裏にある組織が、もし、私の推測に近い規模だったとしたら……そう遠くない将来、この世界は、苦渋の選択を強いられる……)


 『侵略戦争』という言葉が頭をよぎった。


 これまでのような『生贄を選定する戦争ごっこ』ではなく、

 本物の『血で血を洗う地獄』を迎える可能性。


(もし、件(くだん)の組織が、ゼノリカのように『異世界侵略の経験者』だとしたら、『本物の戦争経験』に乏しい『この世界』は、間違いなく悲惨な目にあう。……もし、世界侵略の初手に『エリアBの掌握』が選ばれてしまえば、どうにか凌げたとしても、壊滅寸前まで追い込まれることは間違いない)


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