第1455話 弱さの贖罪。


 ひととおり、妄想を並べ終えると、

 スールは、首を横に振って、


(……妄想が過ぎるな……愚かしい……)


 自分の考えを、自分で否定する。



 ――そんなスールの視線の先で、

 カドヒトは、かるく首をまわしながら、


「さて、それじゃあ、続きをはじめようか。そろそろ五分は経過した。もう一度まわせよ、バンプティルーレット。お前の可能性は、まだ『底』に達していない。俺にはわかる。いや、本当は何もわかっちゃいないんだが、こんなところで終わられても困るから、願望も込めて『お前の魂魄はまだ可能性を残している』と根拠なく断言しておく」


「……」


「さあ、さっさとまわせ。いまさら躊躇は許さない。お前は、力を求めて『虫の異常性』に身をゆだねた。その意地は、ただの虚勢や虚仮脅しではないはずだ」


「……」


「ハンパは許さない。まわせ。まわさないのならば殺す。俺の言葉、理解したか? 栄えあるゼノリカの天上、九華十傑の第十席序列二位バンプティ」


「……」


 バンプティは、整理しきれない頭を抱えて、

 しかし、立ち止まることも許されてはいないので、




「……まわれ……『バンプティルーレット』……」




 宣言すると、

 そこで、

 いつものルーレットが顕現した。


 カオスバンプティルーレットではなく、

 これまでの全てを積んできたバンプティルーレット。


 ――と同時に、

 頭の中に、声が響いた。


『……ギギ……おいおい、バカか、バンプティ……なぜ、カオスをまわさない』




「――弱さで壁は壊せない――」




『……真理だな。道理ともいえる。しかし、それは未来を飾る概念だ。【暴力的な今】を飾るには不十分な観念。それじゃあ、ダメだ。それじゃあ、お前は開かない』


「黙れ……体と心は支配されても……誇りだけは自由にさせん」


『ギギ……模倣(もほう)の言葉じゃ届かねぇよ』


 仮バグは、鼻で笑ってから、


『もういいや。どうしてもお前でなきゃいけない理由はねぇんだし。あとはオレがやる』


 その言葉の直後、

 バンプティの全身がグワっと熱くなった。


「ぐっ……うぐぅう!!」


 すでに『一度脆くなってしまった精神力』では、

 仮バグの侵攻には抗えない。


「待て……私は……まだ……」


 あらがう気力は残っている。

 しかし、現状、あらがう気力が残っているか否かは問題ではなかった。


「まだ……私は……」


 重要なのは前提。

 強さに飲まれ、弱さに溺れたという前提が、

 バンプティの全てを蝕んでいる。


「どうして……私は……こんなにも……」


 『それでも』と、弱い自分を殺して、絶望と向き合う力が、

 決定的に足りていない――というワケでも無いのだが、

 積んでしまった前提は覆らない。


 バンプティは受け入れなければいけない。

 己が弱さの贖罪(しょくざい)として。


『眠れ、バンプティ。オレにとって重要なのは、てめぇの【薄っぺらな我】ではなく、その【芳醇な可能性】だけだ』


「ぐぅう……ぁああああああ!」


 全身を包み込む熱は、

 驚くほど容易に、

 バンプティの意識を奪い取った。


「――ぁ……」


 フラっと、倒れそうになったその体を、

 グっと、『仮バグ』の意識が支える。

 すべてが切り替わる。


 『バンプティ(仮バグ)』は、ニィと微笑んで、




「――待たせたな。それでは、続きをはじめようか。本当の『オレ』の強さを教えてやる」




「ついには表層に出てきたか。お前の異質さも、なかなか面白い」



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