第1453話 虚しい真理の羅列。
「あと、200億年ほど修行すれば、俺相手でも、かすり傷くらいは、つけられるようになるだろう。ぃや、200億じゃムリか……プラス、5000年くらいは積まないと、かすり傷までは厳しいかな」
上から降り注ぐ言葉が、
バンプティの耳に触れるが、
当然のように、右から左へと流れていく。
今のバンプティは、解決しえない不可思議を抱えて呆然としていた。
理解できない速度で重心をさらわれて、
気づいた時には仰向けで寝転がり、
まっすぐ天井を見つめていたバンプティ。
痛みはなかった。
先ほどのカドヒトは、
まるで『生まれたての子猫』でも扱っているかのような繊細さで、
バンプティの体を横に流したのだ。
――その様子を見て、
少し離れた場所で見学しているスールは、ボソと、
「……バンプティ猊下の機動魔法……案外、見掛け倒しだったな……それとも、リーダーが強すぎるだけ? ちょっとよくわからないな……」
スールのレベルでは、
二人の闘いを『理解』することは出来なかった。
というか、カドヒトの武を理解できる者など、
神界の深層を隈(くま)なく探し回っても、そうそういない。
――ゆえに、
「今……私は……何をされた……?」
戦闘中だというのに、そんな質問を投げかけてしまうバンプティ。
自分でも『イカれた質問』だということは理解しているのだが、
しかし、あまりにも自分の現状が理解できなさすぎて、
つい、口からポロっと飛び出してしまったのだ。
「ちょっとだけ『良い感じ』に、お前を投げた。それ以上でも、それ以下でもない」
「……」
「体術ってのは、極めれば、相手の力を利用できるようになる。魔法やスペシャルを使わなくても、世の中の法則を熟知していれば『膨大な存在値の差』をひっくり返すことも、そう難しくはない。まあ、もちろん『ちゃんと高みに至った者同士』の闘いだと、お互いに『ソレ』を知っているから、膨大な数値の差をひっくり返すことはできなくなるがな」
「……」
「多くを知って、――『数値には意味がない、キリっ』というイキった時期を経て、――『くそが、結局、数値も大事じゃねぇか』と、ふてくされる反抗期を経て、――『あれ? でも、やっぱり、数字って、あんま意味なくね? あ、いや、でも……』という困惑期を経て、さらに、――『あー、もう、わからん! もういい、知らん! 寝る!』という不貞寝(ふてね)期を経たりもして……そうやって、いろいろ知って、積み重ねて、多くを出来るようになって……真理を知った気になったり、自分のカラッポさを理解したり、全部がただの鏡でしかないって現実に気づいたり……そんな諸々の時期を経て、その先に待っていたのは、結局のところ、ただのジャンケンだった」
タメ息まじりに、どこか遠くをみつめながら、
「……虚しい話だろう? 強さなんてものは、結局のところ、ジャンケンの上手(うま)さなんだよ。もっと正確に言えば『ジャンケンにうまいもクソもない』という『実は最初から明瞭』だった『当たり前の理解』にいたって、ようやく最果てのステージにたてる」
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