第1447話 すべてが空になる。


「存在在170程度の雑魚が、存在値3000の私に敵うとでも?」


 そう言いながら、

 バンプティは、ナメたムーブで、

 カドヒトの攻撃を払おうとした。


 ――けれど、


「ぶっ!」


 カドヒトは、バンプティの雑な動きを、余裕で見極めると、

 そのまま懐に入って、顔面に拳をたたきつけた。


 続けて、体を回転させてカカトをいれる。


「ぐふ!」


 存在値の差が大きいので、ダメージは微妙。

 軽いジャブ程度の痛みしか与えられていない。

 だから、バンプティは、カドヒトの攻撃に、のけぞることもなく、

 ただ、軽く声をあげる程度ですんでいる。


 ――痛みはない。

 ただ『現状の大問題』はそこではない。

 カドヒトの拳が『届いている』という『事実そのもの』が何よりの問題なのだ。


 ゆえに、バンプティは、キっと強い視線でカドヒトをにらみつけ、


「な、なぜ、届く! どういうことだ! 先ほどまでの貴様であれば、間違いなく払えていたはず。なのに……っ」


 少し距離をとりながら、

 警戒心を強化しつつ、


「先ほどまでとは動きが段違いではないか……何をした? 絶死でも積んだのか?」


「だったら、真っ赤な光に包まれているはずだろ。頭のイカれ方がハンパない俺でも、さすがに、現状で、絶死にフェイクを仕込むようなマネはしねぇよ。あまりに意味がねぇ」


「……で、では、なぜ? いったい、何を……」


「実力の一端を見せてやっただけさ。言っておくが、まだまだ、まったくもって全力じゃないぜ。お前程度の雑魚に本気を出すほど、俺は大人気なく無いんでね」


 涼やかな表情でそういうカドヒト。


「……」


 バンプティは、数秒だけ沈黙してから、


「……ふ、ふん。いいハッタリじゃな。そのまっすぐな顔つきで言われると『まさか本当なのか』と、ほんの少しだけ疑ってしまった。――が、もちろん、そんなはずはない。そこまでの高みに至った人間など存在するはずがない」


 『自分の中の現実』に寄り添うと、


「どんな奇術か知らんが、しかし、まあ、その最後まであきらめない姿勢に敬意を表し……」


 心を整えて、

 全身をオーラと魔力で充満させる。


「……見せよう。私の全力を。センエースをも超えてしまった、真なる最強の姿を」


「真なる最強ねぇ……」


 鼻で笑いながら、

 カドヒトは、ゆったりと武を構えて、


「そんだけの大口をたたいたんだ。ちゃんと、俺を置き去りにしてくれよ。期待しているぜ」


 そう言うと、

 カドヒトは、空間を駆け抜けた。

 バンプティの死角に潜みながら、

 バンプティの意識を操作しながら、

 変幻自在に迷いなく、

 驚くほどまっすぐな円を描く。


 軽やかに舞う、

 鮮やかな閃光。


 カドヒトは、バンプティとの闘いにおいて、

 これまでの自分に課していた『いくつかのハンデ』をシカトした。


 存在値はそのままに、

 しかし、戦闘力の方は、少しだけ自由にした。


 その結果、

 バンプティは、


(……な、なんじゃ、この圧力は……)


 押し込まれる。

 バンプティが見せる『すべての武』が、

 カドヒトの前では、ただの『空(くう)』になる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る