第1427話 バンプティ・バンプティ。


「まわれ、『バンプティルーレット』っっ!」


 宣言すると、バンプティの目の前に、

 十等分に区切られたホイールが出現し、

 グルグルと高速でまわりはじめた。


 本気で戦う時にしか使用しない異型グリムアーツ『バンプティルーレット』。



「とまれぇ!!」



 命じると、

 回転がビタッッと停止した。


 時計でいうところの『12時の地点』に設置されている『矢印』、

 その矢印が示す効果が出現するという異能。


 本来なら、運否天賦になるこの技だが、

 しかし、バンプティは、長年の訓練により、

 自由に目押しが出来るようになった。


「……『バンプティ・バンプティ』を召喚……私の全力を見せよう」


 バンプティが本気の本気で戦う時のスタイル。


 バンプティ・バンプティは、

 バンプティが、自ら創り上げ、必死になって磨き上げてきた剣の名前。

 ※ この場における創り上げるとは、

   神の『創造』とは違い、

   鍛冶師的な『鍛造』である。

   もちろん『剣創りにおける工程』を、

   一人で全て行ったワケではないが、

   素材集めや、コアマテリアルの強化などは、

   バンプティの手によって行われた。


 バンプティルーレットで当てなければ使用できないというアリア・ギアスを組むことで、火力を底上げしているという徹底ぶり。


 『目押しできる』という点から、じゃっかん、アリア・ギアスの効果は薄くなっているものの、目押しできるようになるまで100年以上の年月がかかっているため、そこまで大きな軽減ではない。


「私の全てを見せよう!!」


 叫びながら、バンプティは、カドヒトと自分の間にある距離を殺した。


 存在値に差があるので、速度で追い込むのはたやすい。

 数字の暴力によるワガママな制圧。


 だが、


「ワンテンポ、鋭くなったな! 火力だけではなく、敏捷性も上がる武器か……いや、その二つだけじゃなく全体的に強化される感じかな? 非常に、いい武器だ! 丁寧に磨いてきたのが伝わってくる! お前の歩みには重みがある! 褒めてつかわす!」


「何様じゃ、ボケ!」


「神様の王様だ! ひかえおろう!」


 存在値の差を埋めてくる軽快なムーブ。

 ヒラヒラと舞い散る花びらのように、

 カドヒトは、バンプティの全てを受け流していく。


(ぐぅ……なんという、キレのある流(りゅう)……本当に、なんなんじゃ、この圧力は……)


 奇妙な『深さ』を感じる武。

 『バンプティの理解』を受け付けない流。


 カドヒトは、きわめて優雅に、バンプティの全てをさらっていく。


「私の剣が! その全てが! まるで見えているかのような動きじゃな!」


「見えなくても、受け流すことは出来るさ! ……命ってのは、そういうものだ」


「まるで悟ったようなことを言うのう!」


「悟っただけじゃ、ここまでは届かねぇよ! 答えは、その一歩先にある! ……まあ、たとえ、答えを知ったとしても、『だからなんだ?』という『さらなる自問自答』が始まるだけなんだがな……」


「……」


 あまりにも抽象的な概念。

 けれど、不思議なことに、浸透してきた。

 カドヒトの言葉は、不自然なほど、

 バンプティの中にしみわたっていく。


(この男は『おそろしく奇妙な言葉』を使う……『理解させる気が全くない物言い』じゃというのに、触れていると、なぜだか『つかめそうな気』になってくる……)


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