第1428話 本気の対話。
(この男は『おそろしく奇妙な言葉』を使う……『理解させる気が全くない物言い』じゃというのに、触れていると、なぜだか『つかめそうな気』になってくる……)
おそろしく濃厚な三分間。
決定打には届かない高度な応酬。
武の交わし合いに一呼吸がついた時、
バンプティは、乱れたオーラを整えながら、
「……見事な武じゃ……認めよう。ぬしは強い」
カドヒトが魅せたのは、
『遥かなる高み』ではなく、
『同じステージ』の『高み』。
だから、バンプティは、まだ『冷静さ』を保っていられる。
ただの『純粋な敬意』にとどまっていられる。
今のところ、まだ、沈着静穏に『認識』を模索できている。
理解など到底できるわけがない。
しかし、まだ、現状と向き合っていられる。
「おそらく、ぬしの『その強さ』は先天的なものではない。認めたくはないが……私と同じで『ノロマな歩み』を愚直に積み重ねてきたもの……」
三分間の対話(たたかい)で、
バンプティは、カドヒトの器を理解した。
『正確な強さ』を理解することは難しくとも、
『同じ道を歩んだ者』の器を理解することなら不可能ではない。
カドヒトは、決して、ただのクズではない。
常軌を逸した器を持つ者。
バンプティの評価を受けて、
カドヒトは、ニっと微笑んで、
「ああ、その通りだ。俺も、あんたと同じで才能はなかった。だから『一歩前に進むだけ』でも、いつだって、すげぇ時間がかかった……」
『成長早い』を持っていれば、レベルは上がりやすい。
しかし、レベルやステータスは、所詮、補正でしかない。
いくら補正の数値が高くても、
『根幹となる器』が脆ければ、
ただの空虚なハリボテとなる。
「全然前に進めない苦痛を背負って……けど、俺は諦めなかった。どんな時でも、折れずに、必死になって積み重ねてきた……」
自分の手をみつめる。
グっとにぎりしめて、
「俺は、俺のことを『出来の悪い人間だ』と自覚しているが……しかし『折れずに積み重ねてきた』という、その一点に関してだけは……いつだって俺の誇りだった」
カドヒトは目を閉じて、天を仰ぐ。
少しだけ深い呼吸をして、
呼吸器と世界をリンクさせる。
世界とひとつになって、
運命と向き合って……
――そんなカドヒトの姿を見て、
バンプティは、グっと奥歯をかみしめ、
「……私が生まれた時には、すでに、主は御隠れになっていた」
カドヒトと『本気の対話』をはじめようと、
真剣に言葉を選択しながら、
「しかし、当時は、今と違い『主を知る者』が『それなり』にいた」
『当時から既に超高貴な存在だったセンエース』に拝謁できた者は少ない。
とはいえ、今と比べれば、絶対数は遥かに多かった。
「主を知る者は、みな、主を称えていた。主の光に触れた者は、みな、一様に、深く深く主に感謝していた。あの感情は、勘違いや洗脳や妄想の類ではない。そんなもので、あれほどの想いを抱かせることなど出来るものか。そのぐらいはわかる。私は賢くないが、バカではない。――だから、私も主を愛した。世界を照らしてくれた命の王に、心の底から感謝した」
本気の対話を求めた理由は単純。
『そうしなければならない』と魂が叫んでいるから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます