第1103話 おとなしく渡した方が身のためだぞ。逆らえばそこの女も殺す。


「お前は『不正の現場』を俺に抑えられてしまった。俺は悪を許さない正義の使者。よって、お前の罪はここで、さばかれる。俺は、問答無用で『お前がおかした不正』をただす」


「……ようするに?」


「お前が不正に手に入れた冒険の書を、正義の名のもとに強奪し、闇ルートでさばく」


「……見事な正義っぷりだな。ぐぅの音も出ないとはまさにこのこと……」


 78番の言いたいことを簡単に訳せば、


 ――『弱そうなヤツ』が『冒険の書を不正に手に入れた現場』を運よく目撃した。

 ――弱者と犯罪者には『何をしてもいい』というのが、基本的な世界のルール。

 ――売りさばく用の『冒険の書』ゲット、うはうは。


 非常に簡潔な話。



 冒険の書は『登録されている者』以外が所有していても、本来の価値を持たないが、

 『それでもいいから買いたいという者』はいくらでもいる。


 ちなみに、フーマーの規則では『冒険者がほかの冒険者の冒険の書をうばうこと』に関しては罰則を設けているが、『冒険者以外に奪われること』に関しては、むしろ、『奪われた冒険者側』に対して罰則を設けている。


 言いたいことは一つ。

 ――冒険者の品格を下げるな。



「おとなしく渡しておいた方がみのためだぞ。もし俺にさからうなら、お前だけじゃなく、そっちの女二人もなぶり殺す。別に好みじゃないし、今はそういう気分でもないが、俺に逆らうことの意味を教えるために犯す。そして殺す」


 ペルソナXの付属効果で、

 相手に対して、ある程度、思った通りの印象をあたえることができる。


 二人の女神が、78番に対して見せている印象は、

 『センの仲間っぽい、存在値20前後の、

  そこそこ強そうではあるけど、どうにも野暮ったい女戦士』。


 この世界においては、上位に属する才能に恵まれた78番は、

 当然、これまでの人生で女に困ったことがなく、

 だから、『野暮ったい女』を襲ってまで抱きたいとは思わない。


 だから、これは脅しを完遂させるうえでの、ある種のケジメ。

 相手に引かせるための決意表明。


 センは、少しわざとらしくタメ息をついてから、


「お前さぁ……俺が二次試験でトップの成績だってことも聞いてなかったのか? ちなみに、こいつらも一桁台の順位だぞ」


「はっ、チームの運がよかっただけだろ? 言っておくが、俺も運はそこそこだ。たまたまひろったアイテムだけで、ランキング9位までかけあがったからな」


「ほう……そりゃ、すごい。なかなかの豪運だ」


「そして、俺の存在値は39……お前も、そこの女どもも、推定20前後。多少、携帯ドラゴンの性能に差があったとしても、存在値に『それだけの差』があれば……あとはわかるな?」


「絶望的だな。お前と俺の差は、あまりにも大きい」


「そういうことだ。さ、というわけで、さっさと冒険の書を出せ。抵抗するなら……」


「いや、抵抗はしないよ。『俺』はお前に手を出さない。俺にとっては、冒険の書よりも、こいつらの方が大事。こいつらが『俺のもとからいなくなる可能性』が少しでもあるのなら、俺は常に『そうならないための選択肢』を選ぶ」



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