第1082話 大事なことなので……


(敗北を認めさせる……キチンと実行しようと思うと、なかなか手段が難しいミッション……こんな完全にイっちゃっているようなヤツに拷問したところで、おそらく効果はないだろうし……やべぇな……このミッション、意外と前提で詰んでるぞ……)


 ゴートが悩んでいる間も、ずっと、

 P型センエース3号は、ザコ丸出しのムーブで、両の拳を粗雑に振り回し続けている。


 存在値10前後のしょうもない攻撃。


 そこらのスライムなら、なんとか倒せるだろうが、EXレベル99兆という破格のラスボス『ゴート・ラムド・セノワール』を倒せるハズもなし。


「……俺がその気になったら、お前のことを、一秒以内に、10兆回ほど殺せると思うんだが……まだ戦うか? 降参した方がいいんじゃないか? 『まいりました』の一言で、お互い、幸せになれるぞ。『いなくなった親父を探している』とか、そういう『引けない理由』が特に無いなら、ここらで折れておいた方がいい」


 どうしたものかと考えながら、

 しかし、結局のところ、思考がまとまらず、

 絞りだしたのは、そんな『しょっぱい脅し文句』だった。


 ゴートの安い脅しを受けたP型センエース3号は、


「その程度の脅しで、センエースがあきらめると思うか?」


 などと、キメ顔で言われ、

 ゴートは『なんとも言えない奇妙なイラつき』を覚えて、


「は? 知らねぇよ」


 イライラをおさえるように、深いタメ息をつきながら、


「センエースなんて『ただの偶像』だ。おとぎ話の神様が『どの程度の絶望だったらあきらめるか』なんて、わかるはずもない。その明確な尺度を心に有しているほど、俺はマニアじゃないんだよ」


 とうとうと、


「……まあ、話に聞いたところによると、どんな絶望にも屈しないヒーローだったらしいから、結構な状況でもあきらめずにいられるだろうとは思うけど……ただ、俺とお前くらい絶対的な差があったら、さすがのセンエース様でもあきらめるような気がするけどな」


 たんたんと、

 よどみなく、


「多分『わかっていないんだ』と思うから、ハッキリ言ってやるけど、お前と俺の間には、10兆倍くらいの差あるからな。こんなもん、あきらめるとかあきらめないとかの話じゃねぇぞ」


 どうにか『P型センエース3号の心を折ろう』と、言葉を駆使してみるものの、

 なんだか、空回りしているばかりで、てんで前には進んでいない。


 P型センエース3号は、

 ゴートの言葉など、右から左といった感じで、

 まったく、一ミリも聞いておらず、


「……俺はP型センエース3号……それ以上でも……それ以下でもない……」


 ぶつぶつと、そんなことをつぶやく。


「それ、さっき聞いた。あれか? 『大事なことなので二度言いました』ってやつか?」


「俺はP型センエース3号……俺は――」


「何回言うんだよ、もういいよ、鬱陶しいなぁ。あれか? 俺を怒らせて、お前を殺させて、はい残念ワナ発動! を狙っているのか? だとしたら、策士だな」


「俺は、俺は、俺は、俺は、俺は――」


 交感神経バキバキの散瞳しっぱなしなラリった目で、ここではないどこかを見つめながら、ブツブツと、中身のない言葉を並べ続けるP型センエース3号。

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