第1080話 ……俺はダレだ……
「……人格インストール『不可』……」
その青年は、どこでもない虚空を見つめたまま、
「……俺はダレだ……」
ボソっとそうつぶやいた。
その発言を受けて、
ゴートは、戦闘態勢をとったまま、
最大限に警戒しつつ、
「……『それ』は俺が知りたい所なんだが……」
鬱陶しそうにそうつぶやいてから、
「俺にラブレターを送ったのはお前か?」
そう言いつつ、
システムを使って、目の前の青年を解析しようとした、
――が、
(こいつも解析できねぇ……どうなっていやがる……いったい、なにが……)
困惑しているゴートの視線の先で、
謎の青年は、
ラリったような目をして、
「はぁ……はぁ……」
と、呼吸を少し乱しながら、
頭を抱え、
「俺は……俺は……」
重度のジャンキーのように、イカれた感じでブツブツと、
「俺は……センエース……」
ボソっと、そう言った。
その発言を受けて、ゴートは、眉間にしわを寄せて、
「お前がセンエース? ……『そうではない』と断言する理由を、俺は持ち合わせていないから『決定的なこと』は何も言えないが……しかし、お前みたいな、ヤク中感が強い変態が『理想の神様』だとは思いたくないってのが本音だな……」
などと軽口をたたきながらも、
裏では、全力で、頭もスキルもフル稼働させ、
この状況を好転させようと画策していた。
しかし、ことごとくが失敗していた。
どの角度から解析しようと、すべてが完璧に弾かれてしまう。
「俺は……」
青年は、
ゴートの事などシカトして、
自分自身の奥へとトリップしつつ、
「俺は……P型センエース3号……」
ぼそぼそと、誰に言うワケでもない、
ただの独り言をつぶやきつづける。
そんなP型センエース3号に、
ゴートは呆れ交じりの声で、
「……ちったぁ会話をしようぜ……言っておくが、お前が登場してから、すでに30秒以上経過しているが、話は一ミリも前に進んでねぇぞ。『頭も名前もおかしい』という点以外で、お前について理解できるコトが一つもねぇ。というわけで、そろそろ前に進もう。俺の質問に答えろ。俺の質問が届いていなかったというのなら、もう一度だけ言ってやるから、耳をかっぽじれ。――俺を呼んだのはお前か?」
などと言いながら、ゴートは、P型センエース3号の処理方法を思案していた。
(ブチ殺しても大丈夫か……? わからねぇ……こいつを殺してしまったら、クリスタルが砕けて、同時にリーンも死ぬ……みたいな、ふざけたトラップの可能性もなくはない……)
状況があまりにトリッキーすぎて、
初手を打つのに時間がかかってしまう。
『P型センエース3号を殺せばリーンを取り戻すことができます』という、初期のファミコンなみに明快なストーリーなら、非常に楽なのだが、もし、『P型センエース3号は起爆スイッチみたいなもので、殺してしまったらアウトです』的な、悪質で狡猾なワナだった場合、目もあてられない。
――と、ゴートが、P型センエース3号の処理に関する二択に悩んでいると、
P型センエース3号が、またボソボソと、
『誰に言っている』というワケでもないラリったトーンで、
「俺に敗北を認めさせない限り……永遠に、リーン・サクリファイス・ゾーンが解放されることはない」
などと、そんなことを言い出した。
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