第1077話 ショデヒの未来は明るかった。


 ショデヒは、ルンルン気分で、

 ラムドに媚を売りながら、『右腕』という職務を完璧にこなしつつ、

 裏では、『いつか必ずくる反逆の日』に向けて、

 せっせと親衛隊をこしらえていく。


 ショデヒの未来は非常に明るかった。


 ……ショデヒの中ではな。






(ショデヒ。残念だが、使い潰されるのはお前の方だ。俺の力は、お前じゃ想像できないほどの高みにある。お前が望む未来はおこりえない)






 当たり前の話だが、ゴートは、ショデヒの内心に気付いていた。

 ゴートは確かに賢者ではないが、知性を持たないバカでもない。

 そして、ゴートは、かつて『第一アルファの警察組織』という凶悪な地獄でもがいた経験を持つ苦労人。


 『粘滞性の悪意』に気づけないほど鈍感ではない。


(俺が政治に関して無能という点は事実。人には向き不向きがある。俺は政治家に全く向いていない)


 圧倒的な力と、ほとんどサイコパスな高潔さを持っているので、他者の心をひきつけるカリスマはある。

 しかし、それと実践的政治力はまったく別物。

 象徴にはなりえるが、装置としてはポンコツ。


 ※ この点に関しては、センエースも同じ。彼は、神の王であって、政治家ではない。政治家という仕事は、『特殊な才能』と『相応の訓練』が求められるスペシャリスト系の職業であり、声優なんかと同じで、人気があるだけの素人に任せると、高確率で大事故を起こす。


 ショデヒは狡猾で利己的な人でなし(ダークエルフなので、そもそも人ではないが)だが、政治力は確かだった。

 だから、大事な仕事を任せられたのだ。


 ――ショデヒの並々ならない尽力もあって、

 南大陸はスムーズに一つになっていった。


 ゴートは思う。


(下準備は万全……今の俺の力があれば、フッキ程度は、どうとでも出来る……だから、今の俺が視点を合わせるべきは、この世界の終着点……)


 蝉原との激闘で、ゴートは凶悪に強くなった。

 今のゴートならば、フッキを倒すことなど造作もない。


(今の俺にとっては、フッキもショデヒも大差ない。その気になれば、いつでも、どうとでもできる小物。今の俺の最大目標は、本物のセンエースになること。そのために、何ができるかを考え、実践すること)


 『狂愛のアリア・ギアス』を積んで『絶対的な力』を得る前までは、

 フッキという大敵に対する対処で手一杯なところがあった。

 『数字でははかれない強さ』――それをも圧倒する『数字』を得るためにはどうしたらいいかに腐心していた。

 しかし、もう、絶対的な力は手に入れた。

 今のゴートであれば、どんな巨悪であっても一掃できる。


 ゴートは最強。

 絶対無敵。

 ゴートに勝てる者など存在するはずがない。


 ゴートは、自分の理想を、確実に叶えることができる。


 ――ただ、となると、それはそれで、色々と考えなければいけないことがあって、


(すべての行動に、大きな責任が伴う。自由になったことで、だからこそ不自由になる。厄介なアンビバレント)


 それだけではなく、


(限界なく『リーンの理想』を実現させたいという、終着点のないワガママな欲求――ある意味でリーンは俺を縛る鎖。できることが増えすぎて、立ち往生してしまっているのが現状)



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