第1076話 限界まで利用させてもらうぞ。


(フーマーとラムドがぶつかれば、確実に、両者とも疲弊する……どっちが勝とうが、残るのは死にかけのエサ。あとは、肥大した魔王国の軍で、両者とも飲み干す事ができる。大事なのは、私が、その時の総大将についていること)


 ようするに、ショデヒにとって大事な事は、

 フーマーと拮抗出来る戦力があるか否か、それだけ。


 フーマーにぶつける駒(王)の存在が、ショデヒの待ち望んでいたチャンス。


 ショデヒにとって、ラムドは最高の駒。

 これ以上ない、理想の大将。


 単騎で飛車角の仕事ができるバカ。


 ラムドを上手く活用できれば、

 ショデヒは『手持ちの駒』を減らす事なく、フーマーを削る事ができる。


(限界まで利用させてもらうぞ、ラムド。……フーマーを削る道具として、きっちりと使い潰させてもらう)


 『きっちりと使い潰す』――ここが肝。

 大勝はいけない。

 大敗もいけない。

 和平は絶対にありえない。


 フーマーとラムドが『ちょうどよく疲弊』する。

 『その最善』に届く『調節』が、ショデヒのメインミッション。


(もっとも大事な点は、余力を残させないこと。ほどよく疲弊させるには、私が、戦力の実質的な支配権を握ることが必須……その権限を得るのが一番難しいと思っていたが……)






『ショデヒ、お前は、話に聞いていた通り、なかなか優秀だな。お前には俺の右腕……つまりは、魔王軍全体の元帥の役割を任せようとおもう。できるな?』


『ありがたき幸せ。我が王、ラムド様のお役にたてるよう、誠心誠意、努力させていただく所存』


『お前の王はリーンだ。あいつの夢を叶えるために、お前は軍を任された。その事を忘れるな』


『ははぁーっ!』






 ラムドは、ショデヒを疑うことなく、

 あっさりと権限を与えたのだった。


 結果、ショデヒは、ラムドに対し、


(あいつはバカだ。リーンと大差ない)


 という判断をするに至った。


(力はハンパじゃないが、知能の方はさほど高くない。というより、知能の全てを召喚の力にあてていて、他にまわす余力がないのだろう)


 ラムドの召喚能力は、間違いなく世界一。

 召喚術は、バカに扱える能力ではないので、当然、ラムドの頭の出来は悪くない。


 しかし、政治にかんしては愚かと断じて問題ない。

 ラムドが国を動かす際にやっていることは、その圧倒的な力を振りかざすだけであり、

 とても政治と呼べるものではない。


(あのバカの最も愚かな点は、根源的思想がリーンと同じというところ)


 少し話すだけでも理解できた。

 ラムドは、『平和』を望んでいる。

 アホのリーンが散々謳っていた、『温かい平和』という幻想を、

 なんとも驚くべき話だが、ラムドも、その胸に抱いているのだ。


(完全なる平和を実現した理想郷という『絶対不可能』な夢を見ているバカ……盲目なバカほど扱いやすい駒はない。ラムド……貴様は、甘い夢に溺れていればいい。そんな、砂糖をまぶしたような愚かしい夢は、賢者に貪られるエサでしかないと教えてやる)



 かつてのアルファでも、そう考えたものはやまほどいた。

 自称賢者が考えることは、いつだって同じ。

 『限界を最初に決めてから』でないと行動できない。


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