第1043話 ムカつく。だから、殺す。


「お前は、今まで、自分の欲望のために奪ってきた命の数を覚えているか? ああ、あらかじめ断っておくが、俺が今までに食べてきたパンの枚数は聞くなよ。俺のことはどうでもいいんだ」


「ふむ……」


 と、数秒悩んでから、


「答える前に、一つ聞いておきたいんだが、俺が奪ってきた命の数というのは、覚えておいた方がいい項目なのか? その必要性を微塵も感じないんだが」


「……よくわかった。俺の質問に答えてくれたこと、感謝する」


「まだ答えてないんだが?」


「質問しても無駄だってことがわかった。どうせ、お前は、『本当の本音』は言わない。そうだろ?」


「……俺的には、『本当の本音』ってのが、そもそもにして意味不明な概念なんだが……」


「だよな……俺もそうさ。だって、それは、きっと、真理ってよばれる至極厄介な代物。この世の誰にも理解できない、あやふやな観念。……だから、いいんだ。俺は、もう、お前からの答えを望まない」


 センエースのオーラが、増していく。

 おだやかに、ゆるやかに、

 しかし、確実に、


「P型センキー。俺は今、『命に対する思想』が歪んでいるお前に対して、とても激しい怒りを覚えている。イライラとか、不快感とかじゃない。まっすぐな憎悪と憤怒」


「そうか。まあ、お前が俺に対してどんな感情を抱こうが、別にどうでもいいんだが、しかし、一応言っておく。……その感情は、酷く傲慢だと思わないか?」


「思わないさ。お前の欲望は、俺にとって大迷惑だ。俺にとって、お前は白アリ。迷惑極まりない害虫。だから、ムカつく。だから、殺す」


「非常にシンプルで美しい解答だ。しかし、現実問題、お前じゃ俺は殺せない。なぜか。これも非常にシンプルな話で、センエースは、P型センキーよりも遥かに弱いから」


「何度も言わせるなよ、P型センキー。俺はセンエース。究極超神の序列一位、あまねくすべての命を背負いし神の王。俺は……俺より強い程度のザコには負けない」


 言葉のぶつかりあいは終わった。

 ここからは、たがいの命を殺し合う時間。


 ――先ほどの『まったくもって意味のない対話』を経て以降、

 センエースは、

 一歩、踏み込んで、

 P型センキーと対峙した。


 『強者』との闘い方なら知っている。

 センエースは、産まれた時から最強だった訳じゃない。


 というか、最弱と言っていいほど、初期ステータスはボロボロだった。


 けれど、だからこそ、

 遥かなる高みに誰よりも憧れて、

 誰よりも踏ん張って、

 どうにか、こうにか、今日まで辿り着いた。


 ――だから、

 P型センキーは瞠目した。


(器の違いか……存在値の差を考えれば、ありえないほどに削られている……イカれた精神力だけが武器じゃないって証明……バカみたいに積み上げてきた器……その強度……『この上なく美しい』と感嘆せずにはいられない)


 出力が劣っているのなら、それ相応の闘い方が、

 戦闘力で負けているのなら、それ相応の闘い方が、

 絶対に負けてはいけない闘いならば、

 ――それ相応の闘い方がある。


(素直な一手は皆無……ただただ獰猛に……俺を削る事しか考えていない、飢えた獣のような、とことんまで意地汚く、見境のない、ダーティな攻防……)


 異次元の気迫。

 むき出しの牙が、

 P型センキーに喰いこむ。


「うぐっ!」


 削られる。

 有利を殺される。

 不利を押し付けられる。


 『勝つこと』だけを考えた一連。

 『殺すこと』だけに腐心した一手。


 センエースが最も得意とする戦法、

 『センエースが誇る膨大なステータス』の中でも、最も飛び抜けている値、

 それこそが、『運命に対する反逆力』!!


 ――とはいえ!!


「本当に、お前は、存在からしてチートだな、センエース。これだけのスペック差があって、まさか、ここまで削られるとは思わなかった……普通に考えれば、こんなことは、絶対にありえない。お前だけだ。お前だけが、この偉業をなせる。命の最前線――火事場における狂気的な爆発力。お前は素晴らしい。だが、覆すまでは至らなかった。これも事実」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る