第1042話 命は、喰われるために存在している。


「俺は、P型センキー。お前の精神力と、ソンキーの天才性を併せ持つ、最強の神!! その上で! 狂気の性能を誇る、ブッチギリ最強の携帯ドラゴンを所有した、完全なる王!!」


 その宣言を、


「……」


 センエースは黙って聞いていた。


(ナメた話だよ、実際。……俺が……俺たちが積んできたものを全部パクられて、ごちゃまぜにされて……振り回されて……)


 普通にイライラしていた。

 これは『許せない』とかいう、ちっぽけな感情ではない。

 なんというか、

 言葉にしきれない不快感。


 表現しきれずに、ただイライラしているセンエースに、

 P型センキーは、ボソっと、


「センエース。お前は終わった。俺が勝ち、世界は終わる。俺に喰われて、全て消える」


「……お前の最終目標は、世界を喰う事なのか?」


「ん? 言ってなかったか? ……ああ、そう言えば、言ってなかったかもな。俺の中では当たり前のことすぎて、宣言し忘れていた。悪い、悪い」


 センエースは、さらに膨れ上がったイライラをグっとのみこんで、

 スゥハァと、一度深呼吸をしてから、


「……なぜ、世界を喰いたい?」


 そう問いかけると、

 P型センキーは、


「はぁ?」


 と、心底呆れたような顔をしてから、


「お前、腹が減ったこと、ないのか?」


「……」


 質問に対し質問でかえされていながら、

 なんの文句も抱かなかった。

 それほどに明瞭で快活な解答だった。


 P型センキーは、バカなガキに道理でも教えるみたいに、


「世界を喰らい、腹がいっぱいになったら、また新しい世界を創る。そして、あるていど育ったところで、また喰らう。俺は、それを……今まで、ずっと繰り返してきた。俺は、そういう存在だ」


「……っ」


「なぜ、そんな顔をする? 人間だってやっていることだろ? 畑に種をまき、育ったら収穫して、また種をまく。俺がやっていることと、何が違う?」


「……」


「少しばかり、規模は大きいが、やっていることは何も変わらない。ようするに、命とは、俺を満たすための贄なんだよ。豚は太らせてから包丁をいれるだろ? 夢も、希望も、愛も、慈しみも、すべては、ただの肥料。命を太らせるエサに過ぎない。お前たちは、時折、自分が産まれた理由について悩むが、そんなものはハッキリしている。お前らは食糧。俺に食べられるために産まれてきた。それ以上でもそれ以下でもない」


「……なるほど」


 そこで、センエースは少し深く息を吸った。

 ドクンと、胸の奥が熱くなる。

 気づけば、イライラは消えていた。

 イライラが消えた理由はいくつかあるが、一番の理由はチグハグ感。


(本音を言っているんだろうとは思うが……それだけではない気がする……なんなんだろうね、この妙な感覚は……まあ、どうでもいいが。今、この瞬間において、最優先されるべきは、俺の疑念ではなく……)


 ジンと重たい熱だけが、芯の奥でチラチラと燃えている。


「ちなみに、一つ聞いておく。答えろ、P型センキー」


「なんだ? 支障がなければ答えてやる」


「お前にとって、世界が食い物だというのはわかったが……しかし『メシを食べなくても生きていける種』は存在する。それをふまえての質問だ。世界を喰わなければ、お前はどうなる?」


「さあ、知らん。俺は今まで、自分の欲望を我慢した事がないからな」


「……そうか。じゃあ、質問を変えよう。お前は、今まで、自分の欲望のために奪ってきた命の数を覚えているか? ああ、あらかじめ断っておくが、俺が今までに食べてきたパンの枚数は聞くなよ。俺のことはどうでもいいんだ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る