第1006話 認知が書き換えられた。
「確か、龍試の時にも、ピーツが、ボソっと口にしていたんだ……」
「ピーツが龍試の時に?」
「ああ、ほら。『ラムドを倒して、なんとかみたいな神になる』……みたいなことを言っていただろう」
「覚えてねぇよ、そんな些細かつしょうもないこと」
※ 覚えていないのではない。
認識していなかったのだ。
これまで、ピーツの発言のほとんどを、
周囲の者は、正確に把握できていない。
そうなっていたのは、『ピーツに興味がなかったから』ではなく、
そうなるように、認知バリアが張られていたから。
「あの迷い言は、いつも通りの、たんなる『ピーツ流イカれ発言』にすぎなかっただろうが、たまたま、名詞だけは私の記憶にある名前とかぶっていて、それで、脳が刺激されて……んー、くそ、ここまで出ているのに……確か……ソ……ソ……ぇぇと……あ!」
記憶を探り、
そして、
「思い出した!」
どうにか、ひねりだす。
一度つながれば、あとはイモづる式。
――認知阻害の殻が砕かれる。
――彼女達のイデアが解き放たれる。
『フーマー東方に隠されていた文献』に記されていた、
『フーマー大学園の設立に大きく貢献した公卿』の名、
「フーマー大学園の設立に貢献した、かつての大公卿の名は……」
それは、
「ソル・ボーレ卿」
ピンポーンという、甲高い音がして、
扉が開いた。
運命がうねりだす。
変革の渦。
世界が変わっていく。
★
ビリっと、空気に感電して、
ピーツは立ち止まった。
奇妙な空気の出所は、探るまでもなく、背後からで、
「……?」
振り返ってみると、
ボーレが、鋭い目で、虚空をにらみつけていた。
これまでのボーレの態度とは一線を画す、
ビリビリとしたオーラを放っている。
「おい……ボーレ? どうした? お腹でも痛いのか?」
ピーツの問いかけに、
ボーレは一切反応せず、
ただ、ボソっと、
「認知が書きかえられた……」
静かな声だった。
スっと通る声。
ガラっと変わった声質。
そんな、奇妙な変化を見せたボーレの横顔を見ながら、ピーツが、
「……はぁ? ホントに、どうした?」
そう問いかけるが、
「……」
本気で心配そうな顔をしているピーツをシカトし、
ボーレは、一度、ギリっと奥歯をかみしめてから、
「まさか、私の認知阻害に『穴をあける』とは……完全に想定外だ……これではフローチャートから外れてしまう……最悪、ラスボス・プロジェクトが破綻する……」
真剣な顔で、ブツブツと、
「P型センエース2号の情動調節はまだ完全ではない……というより、本物とはかなりのズレが生じている。本物であれば、仮にカルシィを心配していたとしても、それを直接口に出すことなどありえない……つまり、P型センエース2号は、まだまだ、センエースには成り切れていないということ。今のままでは、センエース特有の超覚醒など起こり得ない……ゼンにすら、勝てるか怪しい粗悪レプリカ……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます