第790話 ヒーロー見参。


 ある日の放課後、

 ボッチ系陰キャ男子中学生『田中トウシ』は、

 夕焼けが差し込む教室で、

 スマホゲーに勤しんでいた。


 そんな彼のゲームプレイを後ろから覗き込んでいる美少女が一人。


「トウシさぁ……なんで、あんたみたいなのが一位とれんの? クズなのに」

「クズかどうかはランキングに関係ないやろ……ていうか、人間的にクズの方が、スマホゲーとかでは高ランク取るんとちゃうか?」


「あんたなんて、クズだし、無課金なのに、なんで、『大勢の人がやっている超有名なスマホゲー』で、ステータスランキングの一位を取れんの? なんか悪いコトやってんの? ハッキング? ハッキングね? ハッキングしかないわね。はっ……やっぱり、あんたってクズね。死ねばいいのに。ていうか殺す」

「……素直に、『無課金なのになぜ?』と聞いてくれれば、その後の話も早かったんやけど……まあ、ええわ」


 スラっとしたモデル体型の超美少女『暁(あかつき) ジュリア』からの質問に対して、トウシは、

 『いつも通りのノリ』で、たんたんと答える。


「実は、『絶対』に『☆X(シークレット究極レア)』が当たる裏技を見つけてもうてな」


「絶対に……☆Xが? ……ウソでしょ」

「これが、完全にマジやねんなぁ……自分でも信じられへんのやけど、いまんとこ、百発百中」


「絶対に☆Xが当たる裏技とか、そんなものが、もし仮にあったとしても、すぐに修正されるんじゃないの?」


「こういう裏技があるってことを、運営も知らんのやろうなぁ……というか、ワシ以外に知っとるヤツ、おらんのちゃう? せやなかったら、片手間にしかやってないワシが一位を取れるわけないし」


「ちなみに、それってどんな裏技?」

「実際やってみよか? 見ててみ」


 言いながら、トウシは、ガチャの項目を開いて、



「ヒーロー見参」



 そう呟きながら、『10連ガチャ』を引いた。

 すると、スマホの画面がカっと光って、

 次に、ド派手な演出が入った。



「はい、『☆X』、げっと」

「うわ、ほんとに当たった……しかも、10個ぜんぶ……」

「すげぇだろ」


 なんの感慨もなく、サラっとそういうトウシ。

 ちなみに、このスマホゲーにおける☆Xは、超シークレット扱いで、

 出現率は、驚きの0.01%以下。

 本来の最高ランクは『☆9(出現率0.1%)』で、

 『☆X』は、☆9の『キラ』的な扱い。


 その『☆X』を、トウシはすでに、100回ほど連続で引いている。



「ご覧のとおり、『ヒーロー見参』って言いながら引けば、絶対にあたる」

「なんで?」


「知らん。この前、ガチャやろうとした時、なんか、ふと、頭に浮かんで、口ずさみながら引いたら、産まれてはじめて☆Xが当たってな……で、以降、ゲン担ぎで、ずっと言い続けて……そしたら、ずっと当たり続けとる」

「ふーん」


 言いながら、ジュリアは、自分のスマホを取り出して、

 同じように、


「……ヒーロー見参」


 口ずさみながらガチャを引くが、


「当たらないじゃない」

「……あれ? もしかして、ワシの端末だけ? ちょっと、お前、こっちで試しにやってみ」

「あんたのスマホに触りたくないんだけど」

「うっさい、ええから、はよ、やれや」


 ムリヤリにスマホを押しつけられたジュリアは、

 スマホにまだ残っているトウシのぬくもりを感じながら、

 同じようにガチャを引いてみた。

 しかし、


「……あたらないんだけど」

「うーむ。……どうやらワシしか使えん裏技らしいな」

「ていうか、ただの偶然なんじゃない?」


「0.01%が100回くらい連続で起きる偶然てか? 激運、ハンパないな……そんな異常な運の使い方をして、ワシ、大丈夫か? もしかして、そろそろ、頭上に落雷か隕石が落ちて死ぬんとちゃうか?」

「運の使いすぎで死ぬとか、そんなふざけた死に方、絶対に許さないわよ。あんたは、あたしがこの手で殺すんだから」


 『殺す』と言われていながら、

 しかし、トウシは、その事をサラっと流して、


「許さんって言われても、運命だけは、どうしようもないからなぁ」


 などと呟いた、その直後だった。


「「……!!」」


 二人の耳に鋭い震動!

 キィインっと、不快な音に襲われた。

 二人が、反射的に耳をふさいで眼を閉じた直後。




 ―――――――――――――――――――》》》》》》》》》》》




 肌に触れている空気の質が変わった。

 ――最初に目を開けたのはトウシ。


「……はぁ?」


 続けて、ジュリアが目を開けて、


「……ぇ?」


 視界に飛び込んできた風景は真夜中の魔天楼。

 お行儀よく並ぶ凸凹で巨大なビルの群れが放つギラギラしたネオンと、

 真っ赤な三日月に彩られた幻想的な空間。



 突然の出来事に、2人が困惑していると、


『セクション0! チュートリアルを開始する!!』


 背後から響く歪(いびつ)な声。

 反射的に振り返った2人の目に、おぞましい化け物の姿が映る。

 全長3メートルほどの土人形。

 右手に禍々しいフランベルジュ、左腕に巨大なボーガン。


「っ……ぁ……」

「……っ」


 絶句しているトウシとジュリア。

 そんな二人を襲う、さらなる非情な現実。


 ゴーレムの口がパカっと開いて、


『カスみたいなゴミ虫ども。一つだけ言っておく。貴様らは、私に勝たなければ、死ぬ。しかし、貴様らのようなカスが私に勝てるわけがない。つまり、貴様らは死ぬ。確実に死ぬ!』



 そう言って、歪んだ剣を構えるゴーレム。

 そんなゴーレムに、トウシは、


「ちょ、ちょっと待て! わからん、わからん! マジで、さっぱり、意味がわからん! なんやねん、この超展開! ていうか、たぶん、これ、完全になんかの間違い――」


『間違いなどない。――個体名、タナカトウシ……狂気的な頭脳を持つ者。知能は優れているが、肉体強度は脆弱極まりない虫ケラ。これから、貴様は私と闘う。そして死ぬ! それが貴様の運命だ』


 その発言を受けたトウシは、


「……落雷とか隕石とかの比やない謎の不運……どうやら、ワシは、ほんまに運を使いすぎたらしいのう……」


 絶望的な表情で、ボソっとそうつぶやいた。




 ★



 二人がチュートリアルに勤しんでいる光景を、

 最も近いビルの屋上から観察している超越者の姿があった。


「ひさしぶりだな、トウシ……いやぁ、なつかしい」


 彼は、このゲームの支配者。

 数多存在する『神』の中でも、ぶっちぎり最高位の地位に座する『神の王』。


 究極超神センエース。


「今回、このゲームに召集した日本人は全部で100人。当然、その100人の中だと、お前が主役。……タナカトウシ、この世で唯一、俺の心を折った天才。そんなお前が、まさか、チュートリアルごときで終わらないよな? 期待しているぜ」


 ニタァと黒く微笑んで、


「それでは、はじめようか。俺とお前のデスゲームを」



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