第788話 じゃあな、蝉原。


 絶死のアリア・ギアスで、真なる宇宙一のヤクザとなった蝉原は、


「さあ、センくん! 俺に殺されてくれ! もうここまで来たら、同時に終わるのがいいな! 君を殺すと同時に俺も死ぬ! 最高のフィナーレじゃないか!」


「――お前の自殺を黙って見ている気はない。時間がお前を殺すよりもはやく、俺がお前を終わらせる。そして、俺は、俺の中に残っているお前を殺す! 折れてしまった苦い過去! 逃げ出してしまった『かつて』! くだらない重荷を皆殺しにして、俺は一歩先へ行く!!」


 さらに加速する二人の闘い。


 暴走する暴力の嵐。


 絶死のアリア・ギアスを積んだ蝉原は、

 ゴートの存在値を追いぬいて、

 見えない高みにまで昇り詰めていた。


 ゴートでは絶対に勝てない強さ。

 5分も耐えられない!

 逃げる事もできない!

 殺されるしかない!



 そんな絶望の中で、

 絶対的な狂気の底で、


 ゴートは、


「今の俺じゃあ、お前には勝てない。この絶望……前の俺だったら、きっと諦めていた。お前の狂気にあてられて、ポッキリと心をヘシ折られていただろう……俺は、これまでに、二度、お前に砕かれた。『俺達の故郷が終わったあの日』と『ついさっき』の二回」


 事実を並べて、自覚・自認していく。

 だからこそ見えてくる真理は――


「……『今のお前』は『かつて俺を砕いた二度の絶望』よりも遥かに重たい絶望だ。そいつが、今まさに、俺を押しつぶそうとしている……」


 『現実』の底で、

 けれど、ゴートは、


「しかし、まったくもって折れる気がしねぇ。俺の心は、むしろ、熱くたぎっている。……どうやら、俺は、リーンと一緒だと、どんな困難を前にしても諦めずにいられるらしい」


 加速する暴力を抱えて、

 ゴートは、



「……俺は、ただの弱い命……何者でもないチッポケなカケラ……」



 言葉に飲み込まれぬように、


「しかし、だからこそ、叫べる勇気を……」


 砕けてしまわぬように!


「全部をなくして! けれど! 確かに残っていた、この想いを! かき抱いて! 俺は、最後の最後まで、お前に抗い続ける! 俺の全部でぇええええ! お前という地獄を超えてやるっっっ!」


 そして、叫ぶ!!




「俺はゴート・ラムド・セノワール! 『運命を殺す狂気の具現』っっ!!」




 『彼』以外の誰にもマネすることはできない、そのゲージを貫いた強大な意志が、

 世界の芯を震わせて、

 そのまま、『莫大な可能性』となり、『彼』のコアオーラに注ぎ込まれる。


 それは、『劇的なキッカケ』となり、

 ゴートという、まだまだ『未完成な個』を、

 一つの『境地』へと導く。


 『諦めてしまった』という『クソ以下の過去』をむしろ『糧(かて)』にして、

 ケタ違いに膨大な魂を奪い、

 心底から大事だと想える人を守りながら、

 『存在値の最果て』という『極端な地獄』で命を晒し続けた結果、

 ゴートは、自力で、己の中に眠る可能性をこじ開けた!


 全スペックの爆発的上昇!

 結果、ゴートのコアオーラに革新が起こる!!



 『世界』が!

 『ゴートは??????である』と認めた!!








   ***原初の記憶***


      ――おわらねぇ、おわってやらねぇ――

       ――俺は、かならず『??』を守る――

        ――100回やってダメだったなら――

         ――次は1000回挑戦するだけだ――


   ――気概だけは素晴らしいね、『??????』。

   ――けど、1000回やって、それでも、ダメだったら?


         ――その時は――

           ――当たり前のように――

            ――『1001回目』に挑戦してやるよ――


     *** ***








 『数』を超越した先に辿り着くゴート。

 その力は、『絶死を纏う蝉原』をも超えていた。


 その果てしない姿を目の当たりにした蝉原は、



「……もしかして……俺は……負けるのか……」


 乾いた声で、ボソっと、


「それは……想定していなかったなぁ……前と同じで、結局、俺が勝つと思っていた……」



「ナメんじゃねぇぞ、蝉原……お前ごときが、俺に勝てる訳ねぇだろ」


「……そっかぁ……」


 燃え尽きる前の、最後の輝きに包まれている蝉原は、そこで、ボソっと、


「時間切れで終了は嫌だ……せめて、最後は……美しく……」


「時間切れで勝ち逃げはさせねぇ……ちゃんと、この手で終わらせる。俺の黒歴史、俺の因縁、俺の中に根付く亡霊……」


「……さよなら、閃壱番(せんえーす)。君は最高に美しかった」


「じゃあな、蝉原勇吾。お前は最高に鬱陶しかった」


「……誇らしいね」


 その言葉を最後に、蝉原は、ゴートが放った異次元砲に包まれていった。


 全てを飲み込むその一撃の中で、

 蝉原の外殻はカケラも残さずに消滅した。


 そして、蝉原の魂魄と1万のGバグは、高密度の粒子となり、

 ゴートの中へと溶けていったのだった。


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