第786話 狂った愛。



 Gバグの中で、肉体を失い、『砕けた魂魄のみ』になったゴート。

 まだ、ギリギリのところで、かすかに残っていた意識は、

 ひたすらに、『リーンへ謝罪の言葉』だけを並べていた。



(ごめん……ごめんなさい……何もできなかった……結局、俺は、何もできず……また……諦めるだけだった……)



 漂い続けるだけの魂魄。

 意識だけの粒になったゴート。



(ごめん……リーン……守って……やれなくて……約束……守って、あげられ……)



 そんなゴートの意識に、



 ――まだ終わってない――



 リーンの魂魄が触れてきた。


 ――勝手に終わらせるな。あなたは、まだソコにいる――


 まだ消えていなかったリーンのカケラ。

 リーンの核は、まだ残っていた。




(……リーン……)


 ――ラムド……あなたは……まだ、終わっていない。

   こんなところで終わるような……そんな、ちっぽけな器じゃない――




 Gバグの中で、ゴートは、リーンの魂魄と直結する。

 ゴートは、Gバグに蝕(むしば)まれる中で、リーンの『想い』の中核に触れた。


 彼女の想いが、ダイレクトに伝わってくる。

 それは、狂気的なほど深い『温かさ』だった。

 果てなく高次の慈愛。



 ――ラムド……ワシは博愛主義者じゃない――



 リーンは、『自分そのもの』を、ゴートに伝えようとしてくる。

 ゴートに、『己の全部』を流し込もうとしている。



 ――幸福の意味なんて知らない。『平和』って概念の『本当の意味』も知らない。

   ただ、ワシは……

   ホっとするような優しさを、ふれたら温かくなる愛を、

   そういう、『ワシが大事だと思えるもの』を、

   『なくしたくないと思うもの』を守るために闘ってきた。

   ラムド、あなたはそれを守ると言ってくれた。嬉しかった。

   暗闇の中で見つけた、たった一つの光。

   ……たった一つ……けれど、とても大きな光――


 リーンの全てに包まれる。

 恐ろしいほど深い献身。

 狂気的な愛。


 ――あなたに全部を託す。あなたにだから、たくすんだ。

   その意味を、どうか忘れないで。

   これは……本当なら、誰にもわたしたくないもの。

   相手が『あなた以外』だったら、死んでも渡さないもの。

   ……だから……お願いだから、なくさないで――


 リーンの想いは、

 ゴートの中で、

 どんどん膨らんで、






 ――『ゴート』・ラムド・セノワール。

   大丈夫。あなたは、本物のヒーロー。

   あんなやつに、負けるはずがない、すべてを包み込む光――






 触れあった意識が混ざり合って、

 一つの命になっていく。

 重なり合った、命の鎖。

 とても、とても、あたたかい呪縛。

 呪われて、縛られて、

 そして、




 ――自由になるの。




(……ぁあ……)


 ――心が具現化していく。

 リーンの命が、

 ゴートの中で『完全なる領域』に昇華される。




(俺は……ヒーローじゃない……)




 ゴートの意識が、小さく震える。

 いつまでも消えてくれない『弱さ』の奥で、

 見失ってしまった自分の『全部』を求める。


 ――繋がっていく。



(ただの脆い命……すぐに諦めてしまう、意気地のない弱虫……けれど……)



 『だけれども』と、自分に『呪い』をうちこむ。

 破れない縛り。

 魂の誓い。

 アリア・ギアス。

 自分で自分に『命の掟』をつきつける。



(それでも……なくさなかったものは、確かにある!)



 ゴートの全てが沸騰する。

 壊れそうなほど、強く、熱く、膨れ上がっていく。


 芯の奥から膨れ上がる勇気を加速させる。

 リーンの『核』に触れたことで、

 ゴートは、『彼女の底しれない気高さ』を知った。


 ――ゴートは想う。


(リーン。俺は、永遠に、お前の魂に寄りそうと誓う。たとえ、どんな時であろうと、俺の魂魄は、必ず、お前と共に在(あ)る! お前が全部をくれたから、俺は、まだ、勇気を叫んでいられる。だから、俺も、お前に全部をくれてやる)


 ぶっこわれて、ゆがんで、くさって、

 けれど、だからこそ届いた想いを――





 ――受け取ってくれ、俺の、この、狂ったような愛を――






 混ざり合った魂魄が溶けあって、一つの形になる。

 繋がった、命のカケラ。






 ――『狂愛のアリア・ギアス(原初の愛)』、発動――


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