第785話 テプ禁止。


 ――勝てないと理解したゴートは、




「でろ! 出てくれ、テプ! 何かくれ! 今の俺じゃ、こいつには勝てない! 頼む、出てきてくれ! ガチャをまわさせてくれ! 起死回生のチートをくれぇ!」




 そう叫ぶゴートに、蝉原は言う。


「ガチャルトホテプなら、扉の外に隔離してあるから、この場では絶対に使えない」


「……っ!?」


「意味は分からないけど、俺の中に、『そういう情報』がある。今、ここで伝えるべきだと思った俺の判断は、どうやら間違っていなかったようだね。ずいぶんと、いい顔をしてくれる。そそるよ」


「……っ……ぁ……そ、そんな……」


 どこかで在(あ)った。

 『テプがいれば、どうにかなるんじゃないか』という甘え。

 最終的には、テプが、『この状況をどうにかできる強烈な何か』をくれるんじゃないかと、どこかで期待していた――


 ――だが、テプはここにはいない。

 どれだけ願っても、ここでは、ガチャをまわす事はできない。



「うぁああ、ああああああああ!」



 ゴートは、ガムシャラに、せまりくる恐怖と闘いながら、蝉原と対峙した。


「くそ! くそぉお! くそぉおおお!」


 だが、届かない。

 蝉原の『数値』の前では、ゴートは無力だった。


 そして、


「……五分経過」


 無慈悲に、蝉原はそう呟くと、


「食べていいぞ」


 そう命令された、一匹のGバグが、


「――やめっ――」


 必死に止めようとするゴートを無視して、リーンをバグッっと食べてしまった。

 グッチャグッチャと咀嚼して、テキトーなところで、ゴクンと飲み込んだ。


「ぁ……」


 精神が壊れて、真っ白になるゴートの視界。

 そんなゴートに、


「君が惚れた女の子、死んじゃったね……まあ、でも、仕方ないね。そういうもんだよ、この世界っていうのは。偉そうに言えるほど、世界について詳しくなんてないけどね」


「……」


「さあ、続きといこう。これで、君にとっての俺は、『故郷を滅ぼした宿敵』というだけではなく、『惚れた女の仇』にもなったわけだ。いっそう燃えるだろう?」


「……」


「時間制限はなくなった、とはいえ、ダラダラされるのはイヤだねぇ。しょうがないなぁ。じゃあ、もう一個、何かタイムリミットつきの『闘う動機』をあげようか? 何にしようかなぁ……」



 蝉原の言葉など、今のゴートの耳には入っておらず、


「ぁッ――」


 だから、話を最後まで聞くことなどなく、


「ああああああああああッッ!」


 ブチ切れたゴートは、オーラを限界まで引き上げ、




「異次元砲ぉおおおおおおお!!」




 全てを注ぎ込む覚悟の異次元砲を放った。

 狂気的な一撃。

 この世の全てを跡形もなく消し飛ばす事だって可能な火力。


 それを、


「いいよ、センくん! なかなかの照射だ! コクがある!」


 蝉原は、笑って受け止める。


 ゴートは、どうにか、蝉原を消し飛ばそうと、さらにオーラを込めるが、

 しかし、

 それにも、


「く……ぅっ……っ!!」


 すぐに限界が来て、結局、


「はぁ……はぁ……はぁ……くっ……っ!!」



「ん? あれ? 終わり? ここからじゃないの?」



 存在を消し飛ばすどころか、キズ一つつける事ができず、

 ゴートの気力は、あっさりと尽きてしまった。



「……ぅ……」


 ガクっと、ゴートは膝をついて、


「く……そ……リーン……」


 ボロボロと涙を流してうずくまる。


 そんなゴートに蝉原は言う。


「もしかして、また諦めちゃった?」


「……」


「はぁ……君は、どうして、すぐに、そう諦めちゃうかなぁ。もっとファイトとガッツをみせないと。諦めたら、そこで試合終了ですよ?」


「……」


「はは。なんてね。よくもまあ、これだけ差がある状態で、全力の異次元砲を撃つことができたと褒めてあげるよ。やっぱり君はいい。すごい男だ。まあ、そんな凄い男よりもっと凄い男なのが俺っていう、ただの自慢なんだけどね」


「……」


「本当に諦めちゃったみたいだし、もう闘えないみたいだし……うん、君はもういいや。おい、喰っちゃっていいぞ」


 蝉原の命令をうけたGバグは、即座に、バグっと、ゴートを捕食した。

 グッチャグッチャと咀嚼して、ゴクンと飲み込む。


 どこまでも、あっけない最後だった。






 ――これにて、ゴート編、完ッッ!!


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