第756話 才能。
その後、三回戦でシグレとハルスがあたり、
シグレも、速攻で木っ端みじんにされた。
あっけないものだった。
「なんだ、お前ら……弱過ぎるぞ。このゲームは、お前らの地元発祥のゲームじゃないのかよ」
などと言われ、シグレとゼンは、
後方で、顔をつきあわせて、ボソボソと、
「ムカつくわぁ、あの性根腐男(しょうねくさお)。ちょっと天才やぁ思うて、偉そうに。ゼン、あのクソ生意気なクズ男を、『例のアレ(エグゾギア)』でぶっ飛ばしたれ」
「そうだな。互いの立場ってやつを分からせる必要がある。軽くこづいてやろう」
と、そこで、シグレの頭に乗っているニーが、
「いや、だめだよ。アレを使って軽くこづいたりしたら、普通に死んじゃうよ」
「ニー、お前は誰の味方だ? ハルスの味方か? それとも、運命の味方か?」
「……もう、意味がわからないよ。なに、運命の味方って。負けた事が悔し過ぎたせいか、頭がバグっちゃっているよ、ゼン」
「俺はバグってない! バグっているのは、あいつの才能だ! あいつばっかり卑怯だ! 世の中は間違っている! なんで、あいつには『たくさんの才能』があって、俺にはなんの才能もないんだ! 世の中は不公平だ! ひどすぎる! つらい! しんどい! もう人生イヤだ! わーん! ママぁ~」
(どこかで道を間違えさえしなければ確定で『無上尊のナンバーワン究極神』になれる『可能性の塊』が、『自分には才能ないから世の中は不公平だ』って駄々をこねている図……シュールすぎて、みてられないよ)
★
――事前に『セイラもルールを教わっていた』という事もあり、
実は基本スペックが高くて賢いセイラは、
普通に余裕で準決勝まで残っていた。
しかし、準決勝で、彼女は、
「はい、詰みだね。残念、俺の勝ち」
「うわー、負けちゃった……お兄さん、めちゃくちゃ強いですね。正直、勝てる気がまったくしなくて、途中から諦めていました」
「いやぁ、たまたまだよ」
「うー、決勝でハルと闘いたかったのにぃ……」
シュンとしながら、後方のゼンたちがいる所まで惑っていくセイラの背中を、
ヒラヒラと手をふりつつ見送ってから、
「さて……と」
セイラを倒した彼――受験番号177番((この上なく尊いナンバーワン究極神))は、
ハルスが待つ決勝戦の席へと向かった。
★
「セイラに勝ったか……なかなかやるじゃねぇか」
ハルスにそう言われて、177番((舞い散る閃光))は、
「たまたまだよ」
ニコっと柔らかく微笑んで、そう言った。
それに対し、ハルスは、
「あのガキは、まだ幼く、心身ともに未完成すぎるから、今年の冒険者試験では使い物にならないが、おそらく、五年もすれば、余裕で単独合格が出来る……そういう、なかなかの逸材だ」
「へぇ、人はみかけによらないね」
「あいつの優秀さはかなりのもの……『スラムのクソガキとは思えないほどハイスペック』な突然変異……だってのに……そのセイラをあっさり飛ばすとは……」
そこで、ハルスの目がギンっと光り、
「……ゴミばかりで退屈していたところ。セイラを倒したお前なら、少しはマシな手を打ってくれるだろうと期待しているぜ」
「その期待に応えたいのはやまやまだけど、実力以上のことはできないからねぇ」
「そんなに気を張るなよ。俺が勝つ未来にかわりはねぇ。ただ、『この俺様がちょっとでも苦戦できるかどうか』っていう、ただそれだけの話。緊張なんかする価値がねぇ」
「へぇ、これはそういう闘いだったのか。なら、確かに、緊張する価値はないねぇ」
(……妙な野郎だ。まったく重量を感じさせない、気の抜けたワタのような軽さ……しかし、『芯の圧』がある……なんだ、この『わけのわからない威圧感』は……うぜぇ……)
ハルスが、センの異常性を少しだけ察したところで、勝負ははじまった。
ゆるやかに、おだやかに、静かに、
しかし、とてつもなく激しく熱い『闘いの幕』が切って落とされた。
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