第701話 『ありがとう』
一瞬の静寂が訪れた。
柔らかな風が吹いた。
ソヨソヨと、センの髪が揺れた。
雲が溶けていた。
だから、空は驚くほど青かった。
「……神……」
誰かがつぶやいた。
言葉にせずはいられない。
まばゆい後光を背負う、神の尊い姿を前にして、
その場にいる『すべての者(シューリ以外。シューリだけは、誇らしそうにセンをみつめている)』が反射的に平伏の姿勢をとった。
不全を排した最敬礼。
絶対なる者を前にした。
だからこその姿勢。
自然と皆の目から涙が溢れた。
止まらない。
溢れて、溺れそうになる。
嗚咽が聞こえた。
何が何だか分からない。
感情が理性を追い越して、
過呼吸になりかける者もいた。
そんな中、
――この上なく偉大な神は、
「――神の慈悲――」
指をパチンと鳴らした。
すると、柔らかな光が降り注いで、
その場にいたすべての者の涙がピタリと止まった。
乱れた心が、即座に修復される。
驚くほど静かになる心。
おだやかに、整っていく。
「「「「「「「あ……ぁあ……」」」」」」」
魂すら再生可能な圧倒的な力。
心をも真に満たす事が出来る究極の回復魔法。
『センの領域(真・究極超神化6以上)』にまで辿り着いた者にしか使えない、無上の力。
「「「「「「……は……ぁ……」」」」」」
――センは、その場にいるすべての者を『満たす』と、
「強くなったな、お前ら」
温かな声をかけられ、みな、思わず顔をあげ、神の顔を見てしまう。
『許されてもいないのに、顔をあげるなど不敬だ』……と、即座に、かつ、本気で思うのだが、心を止める事ができなかった。
「頑張ったんだな。伝わってくる。お前たちの想い。お前たちの覚悟。……俺は、お前達を誇りに思う。そんなお前達を傷つけられたから、俺は辿りつけた。お前達を傷つけられた怒り、お前たちを傷つけた者をぶんなぐってやりたいという沸騰……それが、俺をここまで導いてくれた」
いまだ究極超神化7を解いていない理由。
それは、きちんと、皆に魅せたかったから。
自慢したかったワケじゃない。
それも、ないわけじゃないが、
しかし、一番の理由は、やはり、
――ただ、理解してほしかった。
自分が、この領域にまで辿りつけたのは『お前たちがいたからだ』と、理解させたかったから。
――神の言葉が、みなの心にしみこんでいく。
流れこんでくる。
「想いだけじゃない。お前たちが強くなったことも、おそらく、俺が辿りつけた理由の一つだ。たぶんだけど、『魂の系譜に連なっている者が~~名以上、自力で壁を乗り越えて神に成る』ってのが、究極超神化7に届くための条件の一つだったんだろうと思う。お前たちが強くなった時、俺は確かに、俺の中での変化を感じた」
神は、目を閉じて、胸に手を当てて、
「ありがとう。折れずに闘い続けてくれて。これまでずっと、世界の為に、頑張ってくれて。本当にありがとう」
神の心が伝わってくる。
神の想いが流れてくる。
「めんどくせぇけど……かったりぃけど……でかい組織のまとめ役なんて、ホントは、やりたかねぇけど……性格的に、ガチで向いてねぇけど……あと、結局、やっぱり、めんどくせぇけど……それでも、けど、やっぱり……」
そこで、神は、太陽よりも眩しく笑い、
「俺は、お前達を愛しているから、これからも、ずっと、ココ(神帝陛下という地位)にい続けようと思っている。……いいよな?」
その言葉に、この場にいる全員、貫かれたような顔で口をパクパクとさせる。
全身が痺れている。
神の言葉が耳を撫でるたび、体中に快感の電流が流れる。
生きている意味が、『命』の意味が、100%を超えて理解出来た気がした。
「なんと、勿体ない……なんと……」
誰かが言った。
誰が言ったか分からない。
みな、同じ事を思ったから。
ブルブルと震えている。
涙で前が見えない。
拭っても、拭っても、溢れ出して止まらない涙を鬱陶しく思い、
必死に心を絞めつけようとするが、それも叶わず、
みなの顔は涙でグシャグシャになる。
「よくわかんねぇけど……どうやら、まだ、D型とかいう妙な『敵』が残っているっぽい。そいつは、必ず俺が殺す。絶対に、お前達を傷つけさせない……だから、これからも、安心して生きろ。輝く明日を信じて生きろ。どんな絶望が襲いかかってきても、必ず俺が殺してやる。忘れるな。いつだって、お前達の上には――俺がいる」
神の言葉に、心が震え立つ。
満たされすぎて、頭がおかしくなったようだった。
全身の芯の奥から、全てが湧き上がる。
瞳に活が入る。
言葉にならなかった。
謝辞を並べるべきなのだろうと理解はできた。
けれど、何を言えばいいか、分からなかった。
どれだけの美辞麗句を並べたところで、この気持ちを表現する事はできないと分かった。
だから、みな、ただただ、あふれんばかりの決意をかきいだく。
湧き上がってくる忠誠心が天元突破して、また、一瞬、クラっとした。
主の威光に泥酔する。
それだけではダメだと理解して持ち直す。
そして、主の愛に応える方法を模索する。
この日、ゼノリカは神を知った。
遠い、遠い、遠い場所におられる、自分たちの『親』を知った。
こうして、またゼノリカは進化する。
神への忠誠心を新たにしたゼノリカは、加速度的に進化していく。
もっと、もっと、果てなく進化し続ける。
……リラ・リラ・ゼノリカ……
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