第700話 ――この上なく尊い『命の王』――


 P型センエース1号は、


「……」


 ゆっくりと目を閉じて、

 深く息を吸ってから、

 ボソっと、





「やっぱ……勝てねぇのか……そっかぁ……まぁ……だよなぁ」




 静かに、通る声で、そう呟いた。

 そんなP1に、センは言う。


「諦めるのか?」


 問われて、P1は、力ない笑顔を浮かべて、


「……ああ」


 そう言った。


「まだ闘ってすらいないのに諦めるなんざ、タブーもいいところ。俺を目指すなら、絶対にやっちゃいけない事だと理解した上でのギブアップ発言か?」





「…………ああ」





「つまんな。最低のシメだ」






 心底から興味を失ったような顔で、そうつぶやいたセンに、



 P1は言う。


「お前なら……」


「ん?」


「センエースなら……今の俺のような状態になっても、諦めないのか? まだ、闘おうと思えるのか……?」



「それは『究極超神化7を使っているセンエースを前にしても諦めないか』という質問か?」



「アホなのか? それ以外に何があるってんだ」


「あまりにしょうもない質問だったから、違う意図がないか確認しただけだ」


「……ぇ?」



「……答える必要のない愚問だが、一応、答えてやる。『今の俺』を前にした程度なら、諦めるに足る理由など、一つもない」



「っ」


「今の俺ごときに折れるようなヤツは俺じゃない」


「……センエースってのは……そこまでじゃなきゃダメなのか……」


「具体的に『俺』を教えてやる。――『今の俺』が『敵意満々の状態で目の前に10000柱ほど並んでいる所』を想像しろ」



「……」


「想像できたか? じゃあ、俺が今から言う事を心に刻め」


 スゥと小さく息を吸ってから、







「――そんな状況でも、バカみたいに、迷いなく『ヒーロー見参』と叫べるのが、センエースという異常奇行種だ」







「……ヤベぇなそれ……ドン引きだ……」


「同感だぜ」


 そこで、P1は、ニカっと満面の笑みを浮かべて、


「センエースになんか……なりたくねぇなぁ」


「あまりにも同感すぎて泣きたくなる」


「はは……ははは……はははははははっ!」


 大声で笑ってから、




「俺はもう降りた。センエースになるのは……D型に任せる」




「そのD型ってのは、なんなんだ? あと、お前もなんなんだ?」



「俺はP型……ただのプロトタイプ1号。センエースという外殻を与えられただけのウツロな人形……」


「……いっさい説明になってねぇなぁ」


「勘違いするなよ、センエース。俺を基準に考えるな。D型は俺ほど小さくないぞ。17兆を超える試行錯誤の末に完成し、俺のような『簡易版』ではない、本物の『センエースエンジン』をつんだD型は、単なる『パワーアップキット作成用』の俺とはワケが違う」


「……センエースエンジンってなんだよ。まさか『ビビった時に鳴りだす心臓の音』の事じゃないだろうな」


 そんなセンの言葉はシカトして、

 P1は言う。


「でも、まあ、D型でも勝てねぇだろうなぁ……センエースには……何をしても、きっと。いや、どうだろうなぁ……D型も、一応はセンエースだしなぁ……はっ、わかんねぇなぁ……俺ごときには……」


「自分の世界に入らないで、きちんと説明してもらいたいところなんだが?」


 またもや、そんなセンの言葉はシカトして、

 P1は、微笑み、



「じゃあな、センエース……この上なく尊い『命の王』よ……」



 最後にそう言い残すと、P1は、細かい光の粒子になって、スゥウっと世界に溶けていった。



 それを見送ってから、センは、


(結局、なんも分からなかったな……やれやれ……)


 心の中でそうつぶやいてから、ゆっくりと、踵をかえす。


 究極超神化7を維持したまま、

 センエースは、ゼノリカの面々の前に立つ。


 そして、


「――神の児戯(じぎ)――」


 指をパチンと鳴らして、

 P1が残した閉鎖空間と、百済の面々にかけられた心殺呪縛を破壊する。


 パリィンと弾ける音がして、

 下らない呪は、すべて綺麗に消え去った。

 どれだけの強力な呪であろうと、神の前では児戯に等しい。


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