第699話 ――舞い散る閃光――


「圧倒している! センエースを! 俺がぁあああ!」


 膨れ上がっていく強さ。

 果てなく、

 際限なく、

 P型センエース1号は強くなり続ける。



「最強の神を! 俺が追い詰めている!」



 P型センエース1号は、必死に自分を肯定していく。

 『自己満足』を『達成』させようと、歓喜を表現しようと必死。


「俺は超えた! 辿り着いた! 俺は最強になった!」



「そうだな……お前は俺を超えた。辿り着いた」



「なら、ほめたたえろぉお! 『俺がセンエースを超えた』という『この事実』を、つまんねぇ虚無で包むんじゃねぇえええ!」


 P1の表情は、先ほどからずっと、まったくもって『歓喜の顔』ではなかった。

 今のP型センエース1号は、『喜び』など、わずかも抱いていないのだから当然。


 最強に達して、最強に認められて、

 それでも、心にあるのは『燻(くすぶ)った怒り』と『消えない焦り』だけ。


「俺は……俺は、お前を――」


 言葉がうまく出てこない。

 タイムリミットが迫っている。

 その、焦りとも少し違う、妙に重たい動悸だけが心を支配している。

 水の中にいるみたい。

 ただ、ドクドクと、意味のない拍動だけが耳を震わせる。


 ――そんなP型センエース1号に、


「なあ、P型」


 センエースは声をかける。


「……あぁあ?!」


 耳と目を傾けてくるP型センエース1号に、

 センは言う。






「五分だけとはいえ、俺より強くなってくれて、ありがとう」






「……っ?」


「おかげで、辿りつけた。今まで、どうしても届かなかった世界。超えきれなかった壁……『真』にとどまっていた停滞……」


「……停滞だと……? なにを、バカなことを……お前は、限界を超えた世界に――」


「俺より強いお前と闘ったことで、足りなかった最後の最後のピースが埋まった」


「……ど、どういう……」


「お前は、俺の宝物(ゼノリカ)を傷つけた。お前は俺の敵。俺は、組織の長として、お前にケジメをつけさせなければいけない。そうでなければ、ゼノリカの輝きに影がともってしまう。ゼノリカに消えない歪みが残ってしまう。そんなことは許さない」


「……」


「俺は王として、お前に勝たなければいけない。絶対に負ける訳にはいかない。そんな敵が、俺より強くなった。五分間だけとはいえ確かに、間違いなく。……おかげで、俺は……もう一歩、踏み込んで、ガムシャラになれた……」


 ふいに、センの周囲で、

 センを包み込むように、

 奇怪なアストラル神字が舞いだした。



「ま、まて……なんだ……どうなっている……なんだ、その、わずかも理解できない、異質な光は……」



「ここまで、俺は、一度たりとも弛(たゆ)まなかった。全部を賭して、それでも足りなかったもの……それを、お前は埋めてくれた……」


 重ねてきた軌跡が、

 相互に補完しあって、


「想像できるか? 俺の怒り……大事な家族を、ボコボコにされた恨み……」


 一致していく。

 運命が調律される。


 ――暴君は謳う。


「お前という害意に気づけなかったという情けなさ! いつまでたっても拭いきれない己の弱さ! 全部、のみこんで! 俺は、もう一歩、高く飛ぶ!」


 なにもかもが、一つになって、

 つまらない限界を超えていく。


「俺が積んできた全部と!」


 ついに、実現する、究極の調和。


「背負ってきた想いのすべてを!」


 そして!


「集めて!!」


 だから!!!


           |

           :

         〈* *〉

        [*****]

    [* * * * * * *]

「――/\**【【究極超神化7】】**/\――」

    [* * * * * * *]

        [*****]

         〈* *〉

           :

           |


 宣言により解放された神気は、

 あまりにも高次にありすぎて、

 形を失ったかのように思えた。


 けれど、象(かたち)は、間違いなく、そこにある。

 果てしなく瀟洒壮麗(しょうしゃそうれい)で、

 どこまでも豪華絢爛(ごうかけんらん)な、

 認知陰陽の森羅万象を包み込む輝き。


 静寂の中、尊い輝きに包まれているセン。

 背負っているのは、アストラル神字が浮かぶ後光輪。

 黒銀の結晶がちりばめられた、絶烈な究極超神気。

 荘厳な煌めきを圧縮させたような、どこまでも静かなオーラ。



すべての限界をブチ斬って、

 いと美しく、舞い散る閃光。



 ――そんな破格の神々しさに、



「ぁ……」



 P1は、モブのような嘆息をもらした。

 P1の存在感が、ハッキリとうすれた。

 P1の視界が、弧状の極光に包まれる。


 全てを超越した神が、

 さらに、大きな壁を超えた姿。

 留まる事を知らない、絶対神の後光。



 強大だった。

 巨大だった。



 何がなんだか分からない。

 ――そういう、遠い次元。


 影すら見えない、

 遠い、遠い、遠い、そんなドコか。


 そんな、『センエース』を見たP1は、


「……は……」


 スっと、肩の荷が下りたような顔になって、


「……はは……」


 おだやかに、柔らかく笑った。


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