第621話 ゴートの光。


 今の『ラムド』が目指している『ハッピーエンド』は、リーンが求めていた理想の世界。

 リーンが求めた世界は、あえて言いかえるなら、倫理的完成を果たした世界。

 それを実現する力が、今のゴートにはない。


「だから、これからも俺は孤高で在り続ける。そうでなければねじ伏せられない現実ってのがある」


 ゴートの宣言を聞いて、リーンは、少しだけシュンとした顔になって、


「……ワシはいらんのか」


 ボソっとそうつぶやいた。

 そんな彼女に、ゴートは言う。


「何度も言わすな、我が王。お前が王だから、俺は、今も無邪気に孤高でいられる」


 互いが互いを『見失わないための光』とする。

 そんな理想的な関係性。

 どちらかがどちらかに寄りかかる関係ではなく、真に互いを支え合うパートナーシップ。



 ――そこで、ゴートは、リーンの頬に手をあてて、


「あのふざけた会議の席で、お前は、ボコボコにされながら、しかし、最後まで、『本物の平和を求める王』で在り続けようとした。俺は、その態度を『間違いだ』と指摘したが、それは、『何も持っていない者が目指す道』としては間違っていると言ったまでに過ぎない。お前の言葉を引用するなら、『力なき正義は悪にも劣る』ってやつだ」


 リーンは、ラムドの手に自分の手を重ねる。

 トクンと温かく跳ねる鼓動を感じる。

 そんなリーンに、ラムドは言う。


「お前は美しい。勇者との闘いでもそうだった。お前は、『揺るがない最強』というワケでもなく、心に『絶対の神』を抱えているというワケでもないのに……たんなる一人の弱い女でしかないのに、お前は、どんな地獄の底でも、最後の最後まで平和を叫び続けた。その姿に、俺は、心底から惚れた」


 だからこそ、あそこまで各国のクソどもに対してブチギレた。

 だからこそ、リーンのことを真剣に叱った。


 だからこそ、ゴート・ラムド・セノワールは、リーン・サクリファイス・ゾーンに対し、彼女にとって最高のエンゲージリングである『理想のハッピーエンド』をプレゼントすると約束したのだ。



「――『ピエロを演じていれば平和になると信じている愚かさ』は、間違いなく間違っている。しかし、『お前が抱いている理想そのもの』は文句なしに美しい……俺の王として、お前は、他の誰よりもふさわしい」


 どんなにボロボロになっても、

 『それでも!』

 と、叫び続ける気概。


 リーンは、あの時、黙ってうなだれているだけだったが、それだって、彼女なりの闘いだった。

 『キレてはいけない』という精神の闘い。

 間違いなく間違ってはいたけれど、彼女は、世界のために、歯を食いしばった。


 彼女が、どんな時でも『求め続けた』もの。

 それは、元の世界では、誰一人として叫んでいなかった、高すぎる理想。


 高すぎる理想を抱えながら、それでも折れなかった魂――つまりは、本物の勇気!


 ――それは、38歳のセンエースが、最後の最後に捨ててしまったもの。

 蝉原に負けて、折れて、なくしてしまったもの。


 だからこそ!

 ゴートは、よりいっそう強く誓う!

 もう二度と折れてやらねぇ!


 二度と、二度と、二度と!


 タナカトウシにへし折られ、蝉原に砕かれて、

 ゴートは、今まで、散々逃げてきた。


 折れて、砕けて、逃げて、


 けれど!


 まだ、残っているものは確かにある!!

 全部をなくしてしまった訳じゃない!


 リーン・サクリファイス・ゾーンという『美しい光』を道標にして、最後の最後まで全力であがき続ける!

 それが、ゴート・ラムド・セノワールが選んだ道!

 世界の支配構造を再編する、狂気のマッド召喚士の覇道!


「俺の光。俺の王。リーン・サクリファイス・ゾーン。くだらねぇ心配は全部捨てて、ただただドンと構えていろ。忘れたというのなら、何度でも言ってやるから、そのたびに心へ刻め。お前の隣には、いつだって……俺がいる!」





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