第619話 下地は整った。
――セレーナたちが逃げていく足音も聞こえなくなったところで、
「もう行ったみたいじゃぞ」
上から振ってきたアンドロメダからそう声をかけられて、
「……やれやれ」
UV9は、口元の血を拭いながら立ち上がり、
パッパッと、服のホコリをはらいながら、
「まいったな。キッチリ一割以下に抑えるつもりだったのに……ガッツリと二割ちょっともダメージを受けてしまった」
ナメていたつもりはなかった。
事前の情報から、『それなりの者』と理解していたので、気は抜かず、きっちりと、手抜かりなく手をぬいた。
だが、『このぐらいに抑えよう』と思った範囲を大幅に超えたダメージを受けてしまった。
――結局のところ、UV9は、モナルッポをナメていたのだ。
その結果、大きな損失になるというワケではない。
そもそも、『UV9が、モナルッポに負ける』という事しか計画書には書かれていない。
『手抜かりなく手を抜いた上で、ダメージを一割以下に抑えよう』と思ったのは、UV9が勝手に上げたハードルでしかない。
しかし、そういった、自分に与えたハードルを一つ一つ超えていく事でしか見えてこない世界がある事を、UV9は知っている。
ゆえに、手ぬかりなく手をぬいた上で、『モナルッポほどの天才から、二割ちょっとしかダメージを受けていない』というのに、ここまで落ち込んでいるのだ。
――そんなUV9の様子を横目に、アンドロメダが、顎の髭をしゃくりながら、
「あの小僧、聞いていたとおり、なかなか骨があるのう。きちんと鍛えれば、楽連まで上がれるかもしれん」
「楽連までは上がれないんじゃない? よくて『愚連のA級武士』まででしょ。確かに、そこそこのガッツだったけど、楽連の武士で、モナルッポより根性がないヤツなんて一人もいない」
楽連に属する者は、大半が、地獄の愚連時代を乗り越えた者達(天才として産まれ、ポンポンと駆け上がった者もいない事はないが)。
彼らの根性は、モナルッポですら追いつけない領域にある。
UV9は、暗殺者としてのスキルも持っており、上から命令を受ければ、誰であろうと喜んで殺すが、『楽連の誰かを殺せ』という命令だけは受けたくないと思っている。
現状のゼノリカだと、そんな命令が来ることは、ほぼほぼありえないが、仮定の話として、仮に、楽連の者が暗殺対象になったら、UV9は、頭を抱えて天を仰ぎ『うわぁ、めんどくせぇ』とつぶやいてしまうだろう。
楽連の連中は、強さもそうなのだが、それより、先ほどのモナルッポ以上に、
『まだまだ……ここからだ……絶対に諦めない……リラ・リラ・ゼノリカ……』
と、どれだけボコボコにしても立ちあがってくるという点が面倒臭い。
「……まあ、そうじゃな……流石に楽連までは上がれんか……」
そこで、アンドロメダは小さな苦笑いを浮かべて、
「しかし、改めて考えると、楽連という組織は、ほんと頭おかしい集団じゃのう……」
所属する者のほぼ八割以上が、『モナルッポでも相手にならない根性を持つ豪傑』という、ふざけた組織。
それが、ゼノリカの天下、楽連。
アンドロメダとUV9が、そんな会話をしていると、
「……む」
「おっと」
二人の前に、キセルを手にしている美女が現れた。
彼女――エキドナール・ドナの姿を視認すると同時、
アンドロメダとUV9は片膝をついて頭(こうべ)をたれる。
「下地は整ったようだな。みせかけの希望であるラムド。しかし、実は、ラムドこそが黒幕。世界の内部に食い込んで暴れるラムド。混沌とする世界を解決に導く、『漸進派のゼノリカ』を背負ったリーン」
スゥっと通る声でそう言うと、続けて、
「これからは、UV1と連携し、ラムド経由でフーマーをコントロールしつつ、世界のバランスを調整していく。アンドロメダは通常業務に戻り、UV9は、次の指示があるまで待機しなさい」
「「はっ」」
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