第571話 バカ王子という地位はハルスだけの特権じゃない。


 『その程度でしかないため、モナルッポ王子は、幼少のころから、冒険者試験を何度も受けた。当たり前のように何度も何度も落ち、八回目にして、どうにか受かり、なんとか王族として認められたという恥でしかない経歴を持っている』――という事になっている。

 ちなみに、兄二人は一発で合格した。

 モナルッポの兄二人は、歴代の王族の中でも、抜きんでて優秀であり、そのせいもあって、モナルッポは『出涸らし』扱いされているが、実際のところ、兄二人はモナルッポの足下にも及ばず、彼らこそが、出涸らしだった。



 ――カリネが、


「ランク5っていったら、世界でもトップクラスの人しか使えない超高位の魔法ですよ。そんな魔法がこめられた魔カードを量産って、それもセファイルが……これは、とんでもないことですよ」


「ふーん。俺、魔法とか苦手だからよくわかんねぇ」


 ちなみに、本当は『ランク7の魔法が使える』のだが、その事は、ほぼ誰も知らないと言っても過言ではない。

 ちなみに、モナルッポは、勇者やラムドなどと同じく、フーマーから次期使徒候補として目をつけられている『数少ない逸脱者』の一人。

 その存在値は、驚愕の83。

 ゼノリカ視点ではカスだが、実は、ラムド以上の存在値を誇る、この世界では超上位に位置する超天才。

 ちなみに、ラムド(本物)は78。


「ああ、そういえばさぁ……なんか、みんな、近々、戦争が起こるとかどうとか言っているけど、あれ、マジ?」


「王子……正気ですか? ミルス・トーン・セアの三国が同盟を結び、魔王国と戦争を始めるってことくらい、貴族界隈だと幼子でも知っていることですよ。なぜ、上流階級の中心である王子が知らないんですか……」


 フーマー条約があるため、戦争に参加できるのは、基本的に『貴族(冒険者か、それに近い実力を持つ者)』か、貴族が抱えている軍隊(戦闘訓練を受けているレベルの高い者の集団)だけ。

 それ以外の者は、情報を知る必要がないため、当然のように、伝達速度は遅くなる。

 もちろん、戦争開始時期が近付けば、おのずと、国民全員が知っていく事になるのだが、今、この時期だと、その事実を知っているのは、貴族界隈のみ。


「ちなみに、それって、俺も参加しないといけねぇのかなぁ?」


「当たり前ですよ。王族が参加しない戦争なんてありえません」


 家に強盗が入ってきた時、追い払うのは誰の役目かという話。

 子供が立ち向かう?

 妻が暴れる?

 普通に考えれば、『主人(王)』か『主人が飼っている番犬(兵隊)』が立ち向かう。



「だりぃなぁ……こんなことになるなら、冒険者にならず、城を出た方が楽だったかもなぁ」



 ある特定の時期までに冒険者試験に合格出来なかった者は、正式に王族の血が流れていても関係なく、普通に城から追い出される。

 力なき者が王を名乗る事は許されない。

 力なき者が王を名乗っても、力ある者に奪われるだけ。


「あ、ひらめいた!」


「はい? なにをですか?」


「そのランク5の魔カードを買い占めて、魔王国にぶつければいいんじゃね? それだけすごい魔法なら、魔人(モンスター)の集団なんて余裕で倒せるだろ」


「……セファイルは、現在、魔王国と同盟を結んでいますので、魔王国を滅ぼす目的で買い占める事はできません。というより、現状だと、まともに貿易ができるかどうか微妙なところです。なによりも、そこが一番の問題と言いますか――」


「セファイルがモンスターの国と同盟? はぁ? なんで? 俺の記憶だと、セファイルって魔王国を嫌ってたと思うんだけど? 『セファイルが』っていうか、そもそも、魔王国のことがすきな人間とかいないと思うんだけど? だって、あいつらモンスターだぜ?」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る