第572話 世界の支配者。
「詳しい事は聞いていませんが、魔に魅入られたセファイルは、とにかくなんやかんやで人類を裏切って、魔王国についてそうです」
「なるほど、なんやかんやか。それじゃあ、しかたないな」
言いながら、モナルッポは、心の中で、
(キバを隠していたラムドにビビって、やつらは魔王国にしっぽを振った。けれど、心情的には人類側に表返りたいはず――などと楽観視していたが、しかし、もし、ランク5の魔カード量産技術が、魔王国との共同研究の結果――あるいは、そもそも魔王国が開発した特異技術であるならば、人類は魔王国に飲み込まれる……時期的にクリティカルすぎるという点から鑑みて、魔王国とセファイルは、件(くだん)の会議以前から繋がっていた可能性が濃厚。そもそも、勇者殺害に端を発した魔王国に対する共同戦線はセファイルからの提案だった……)
音速の思考、コンマ数秒で組み立てられていく『世界の裏側』。
そして、その推察は、当たらずとも遠からず。
そして、実は、モナルッポが、答えに『近づく』ことすら、ゼノリカのシナリオ通り。
愚者より賢者の方がコントロールしやすい。
カリネが言う。
「セファイルが人類側に表返る可能性も残っています。しかし、今のところは、まだどうなるか分からないというのが現状……そんな折、『セファイルの企業がランク5の魔カードの量産に成功した』という今回のビッグニュース……もし、セファイルが、そのまま魔王国についたままだと、これはかなりの大問題ですよ」
「ふーん……なんか、よくわからんけど、今、世界って、複雑な事になっていたんだな。やだなぁ……めんどくせぇなぁ……寝て起きたら、解決してたりしねぇかなぁ」
(……このバカ王子が受かった年に受けていたら、私も冒険者になれていたかもね……)
カリネの父は、冒険者ではないが、一応は貴族(冒険者の絶対数は多くないので、支配者側にいるのは、冒険者だけじゃない。冒険者に認められて領土を与えられた者もいる。そいつらの事も一応、貴族と呼ぶ)。
その血を継いでいるカリネも、また、そこらの一般人と比べれば、そこそこ優秀。
『限りなく一般人に近い(上流階級の中では無能に分類される)』が、一般人の中に入れば、かなり優秀な部類に入るため、普通に『世界を理解できる知性』はある。
心底から呆れていると分かる深い溜息をついてから、カリネは、
「簡単に解決する話ではありませんよ。事態は非常に複雑です。……ただ、どうやら、この書簡を読む限り……」
そこで、カリネは、モナルッポの手の中にある紙に目を通しながら、
「その革新的な技術を開発した企業は、おろかにも、フーマーにケンカを売っているようですね……となれば、戦争が始まる前に、セファイルが魔王国ごと、フーマーによって処理される……という可能性も、ゼロじゃありません」
「フーマーにケンカ? なに、それ、どういうこと?」
「えーっと、そうですね……まず、前提ですが、魔カード産業は、フーマーによって牛耳られています」
この世界では、どの国でも、『魔カード産業』が頂点にある。
現代におけるIT企業のように、全ての者にとって必要不可欠で、だから、当然のように、世界を牛耳っている産業。
魔カード産業は、基本的に、フーマーの監視下にあり、それぞれの国家からは切り離されている。
そのため、かなり自由な経済活動がおこなえているが、完全な自由ではない。
フーマーが市場機構であり、世界の基盤は、フーマーによって調整されているのだ。
「魔カード産業に関わる全ての組織は、フーマーの子会社といっても過言ではありません」
フーマーは、戦争には介入しないが、経済にはバリバリかんでくる。
※ 各国の最大手銀行も、フーマーが元締め。ほぼゼロに近い手数料を払うだけで、ほぼ完全な安全が約束されるので利用しない手がない。結果、世界の金はフーマーに集まる。フーマーは金融業でも最強。
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