第205話 殺す気でこいよ
中学に入ってからずっと、センは、こいつに金を払ってきた。
毎月、千円。
それ以上は決して要求してこなかったので、センは、『それなら、まあ、いいか』と黙って金を払ってきた。
中学以降のセンは、父親から、年に一回、100000円をもらっている。
お年玉分、誕生日プレゼント分、他の雑費もろもろ、全て含めて、年に100000円。
その中から、12000円が消えるだけ。
たいした事じゃない。
どうとでもなる。
払った方が合理的。
分かっている。
バカじゃない。
だから、払ってきた。
しかし、今日のセンは、財布に手を伸ばさない。
そのガタイがいい金髪に対し、冷めた目を向けて、
「もう、時間も内申もどうでもいいから、金は払わない」
と、ハッキリ宣言した。
「……あ?」
「お前らの相手をまともにするのは色々と無駄だから、月に千円でいいならそっちの方が楽だと思っただけ。もう『アカコー』は捨てた。『東』なら、何をしても受かる……だから、もう金は払わない」
「……あのなぁ、セーン」
そこで、金髪は、センの肩をポンと優しくたたき、
「そういう、『気合いを見せる系』とか、別にいいから。……こっちは、今日中に、あと五人まわらないといけねぇんだよ。ゴチャゴチャ言わずに、さっさと出せ。今すぐ出せば、聞かなかった事にしてやるから」
「殺す気でこいよ、気室(きむろ)」
「……は?」
「死ぬまで抵抗するから、やるなら殺す気でこいって言ってんの」
「わぁ、かっこいぃ、ステキ、抱いて……で、そのボケ、いつまで続けんの?」
ダルそうにアクビをしながらそう言った金髪に、
センは、すぅう、はぁあ、と深呼吸をした。
恐怖はある。
だが、それを上回っている感情が、他にいくつもある。
だから、止まらない。
センは、気室を睨み、冷めた目のまま言う。
「俺は病院で、お前は少年院ってところか……まあ、そのくらいの結末になれば、蝉原もめんどうくさがって、俺を無視するだろう……あいつはバカじゃない。抵抗するカモは捨てて、抵抗しないカモを選びなおすはず」
センは、カバンを放り投げて、ギュギュっと拳を握りしめる。
「気室(きむろ)、心配するな。勝てるとは思っちゃいない。ただ、見せるだけさ。『このカモは面倒くさい』ってところを」
「……」
「さあ、行くぞ……ははっ……なんか、俺、少し高揚してんな……痛いんだろうな、殴り合いの経験なんざ一度も無いから分からないけど、多分、痛いんだろう……けど、なんだろうな……今は、ちょっと……痛くなりたい気分なんだ」
――言っておくが、俺はMじゃないぜ。
と一言だけつけたして、奥歯をギュっとかみしめた。
――そんなセンを、気室は、面倒くさそうな目で見つめる。
「勘弁してくれよ。……蝉原さんに怒られるの俺なんだぞ。あの人の恐さくらい、ほとんど関わりのないお前だって知ってんだろ。……ふざけんなよ、マジで……たかが月に千円だぞ。なんのためにその金額設定にしていると思ってんだよ……」
「分かっているさ。だから、抵抗するんだ。蝉原はバカじゃない。こっちの出方で行動を決めるはず……だから、俺は行動する」
気室は、面倒くさそうに舌を打って、ボリボリと頭をかいた。
そんな気室に、センは言う。
「今まで大人しく従っていたから気付かなかっただろ。俺はな……そこそこプライドが高い、ゴリゴリの厨二系男子なんだよ」
「……うっぜぇなぁ、もう……」
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