第203話 『本当の第1話』 最強神から神チートをもらった俺が、神速で全てを超えていく物語
「東高? ……おい、閃……なに言ってんだ、お前」
担任の呆れ交じりの声に、センは答える。
「勉強する気なくなったんで、一番近いところに行きます」
「おいおい、閃……これ以上、先生の毛根にダメージを与えてくれるなよ。こちとら、蝉原(せみはら)の対応だけで手いっぱいなんだよ。頼むから、変な面倒を増やさないでくれ。中三担任の忙しさ、ナメてんじゃねぇぞ、おい」
「別にナメてませんよ。志望校を変えるだけです」
「あのなぁ……アカコー(全国レベルの進学校)射程圏内のヤツが、東(県内最低レベルの高校)に行きたいとか言いだすってのは、中三の担任にとって、暴力事件に匹敵する大事件なんだよぉ。……なあ、閃。……よぉく見てくれ、俺の生え際を。……これ以上、こいつらをイジめないでやってくれ。後生だからよぉ」
「マジで、勉強する気がなくなったんで、アカコーはもう無理です。数学を死ぬほど詰めていってギリって感じだったんで……で、今はマジでもう、勉強をやる気がなくなっているんで。というわけで、一番近いところにいきます。これは決定事項です」
「あのなぁ……」
「どうせ、大学は早稲田いくって決めてるんで、高校とか、どこ行っても同じです。むしろ、アカコーに行くのをやめれば、英・国・世界史以外の勉強をしなくてよくなるんで、最終学歴は安定します。……バカが何も考えずに志望校を変えるって言っている訳じゃないんで、放っておいてもらえます? これ、俺の人生なんで」
「……はぁ……なんで、俺のクラスって変なのばっかり集まるんだろ……」
「じゃあ、失礼します」
そう言って、センは、職員室を後にした。
外は真っ赤になっていた。
無駄に長いばかりの廊下は、濃い紫の夕焼けによって、隙間なく染められていた。
窓の外に薄く広がる金紫の雲。
そんな、ちょいと幻想的な廊下を歩きながら、センは、
(英単語は、小中のほぼ全てを使ったから、すでに5000ほど、即答レベルで覚えている。早稲田の英語は量が多いだけだから、速読できれば余裕で解ける。精読力は最低限の『型』さえ頭に入っていれば、あとは素の国語力でカバーできる。ある程度、本を読んでさえいれば、国語力なんて勝手に上がる。つまり、俺なら余裕)
センは、小学生のころから、一日に必ず二時間以上は文章に触れるという訓練を積んできた。
本を買うのは金もかかるし、めんどうくさいので、てっとりばやいネット小説を選んだ。
ネット小説のいいところは、素人が書いているので、間違い採点ゲームができるところだ。
素人が書いた先品は、だいたい、どこか間違っている。
それも、大概の素人は、テストで問われやすそうな『日本語というシステム上、間違えやすいところ』を間違う。
どこがどう間違っていて、何が正解なのか、ひたすら考えながら読む。
それだけで読解力も精読力も爆発的にアップする。
国語力が上がれば、全ての教科のレベルが上がる。
受験に失敗するのは、たいがい、国語をなめてるヤツ。
――この方法の、なにより素晴らしい点は、『小説を読めば、内容がどれだけクソでも、必ず語彙が少し増える』ってこと。
(……『頭の良さ』の基盤は、結局のところ、知っている単語の数。言葉を知らなきゃ思考はできない。『今の時代はすぐに調べられるから暗記しかできないヤツはいらない』なんて言うヤツがいるが、それは完全に間違い。そもそも言葉を知らなければ、何を調べればいいかが分からない)
センは、自分で勉強方法を考えるタイプの人間だった。
――センは天才じゃない。
本を読んで丸暗記できる超人ではない。
数学の難問を高速で解ける異常者ではない(高校入試レベルなら8割いけるが、東大数学は無理。合格ラインまで持っていくだけなら不可能ではないが、準備に時間がかかりすぎる。そんな『意味のない努力』を数学なんかに注ぎたくなかった)。
(俺は、アホほど文章に触れてきたから、バカみたいに数学だけやっている連中より、頭はまわる。理数のやつら、頭を回転させるのは早いけど、『色』がない。処理スペックだけで『根源的な想像力』が弱い。つまり、アホほど文章に触れてきた俺の方が、人間としての質は上ってこと……これは言い訳じゃねぇ……嫉妬でもねぇ……ただの事実だ)
理数系に対する謎の感情を、とりあえず、いったん抑えつけるセン。
言い訳でも、嫉妬でもない。
――ああ、もちろん、そうだとも。
ちなみに、最効率を目指すなら、ネット小説を読み漁るなどという方法ではなく、文法の参考書だけ読んだ方がいい。
センも、そんなことは分かっている。
だが、センは、前者を選んだ。
いつだってそう。
センは、『自分にとっての最善』を求め続ける。
(……世界史も、頻出語句はすでに覚えたから、このまま維持するだけでも8割は余裕。あとの問題は、古典。古文と漢文はほぼ100%暗記モノ。高校三年間、延々に繰り返せば、最低限は余裕で取れる)
数学をやりたくないという理由で、東大も京大も無視したセンは、慶応の雰囲気が嫌いという理由で、小学三年生の時に早稲田を選んだ。
まだ、法学にするか政経にするかは決めていないが、そんなもん、高二(そのぐらいの時期からガチガチに過去問対策をする予定)になってから決めればいい。
(東高なら、数学・生物はガン無視しても、余裕で卒業できる。――結論、もう俺は勉強する必要がない)
小・中で暗記モノを終わらせたセンにとって、早稲田は既に取ったも同然だった。
もちろん、維持するための『対応』は必要だが、
維持するだけなら、必要なのは『時間』だけ。
(寝る前の2時間と、内職の5時間……余裕だな)
センは、ふと、窓の外を眺める。
妙に高貴な雲が流れていく。
(楽だな……数学がなくなるで……すげぇ楽……ああー、ラクラク……やめてよかったぁ)
心の中で、そう言いながら、
「……クソが……っ!」
そう吐き捨てながら、壁を蹴った。
(……もういいだろ……忘れろ……いつまで……ちっ……)
センが『勉強はもういい』と思った理由は、もうひとつあった。
というか、教師に言ったのはタテマエで、こっちが本音。
「……田中……トウシ……」
口にするだけでもイライラする。
顔を思い出すだけで虫酸が走る。
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