第61話 無崎くんは強すぎる。
アストロを機動させ、通信システムをロキの機体に繋げた『イス無崎』は、
不敵に笑い、
「蛇尾ロキ。これから貴様に『知的生命が悠久(ゆうきゅう)の研鑽(けんさん)を経(へ)た果て』に辿りつく姿を見せよう。万物のカルマを背負い戦い続けてきた、この私の狂気に瞠目(どうもく)するがいい」
「……鬼畜の分際で、人間様の言葉を使うのはやめてくださる? 無崎さん」
「ふむ。どうやら、少しは冷静になったようだな」
「ええ。今のわたくしは、冷静に、冷酷に、冷徹にあなたを殺す算段を立てていますわ」
「それでいい。たまには児戯も悪くない。遊んでやる。さあ……くるがいい」
「遊びだなんて、どうか、そんな言い方はおよしになって。これは殺し合い。どちらかが死ぬまで決して終わらない死合い。そう……貴様が死ぬまで終わらない血の狂宴だ!」
飛び出したロキの『両手』には、高出力のジャイロブレード。
豪速の蛇行で近づき、
二本の凶悪なブレードを煌めかせて、
無崎を裂こうとした。
――が、紙一重でかわされる。
メジャー級の一振り、その速度は雲耀(うんよう)。
限りなく一瞬に近い、光速の太刀筋。
だが、無崎は軽く避ける。
目の前で、死の閃光が瞬(またた)いたというのに、
鼻で笑い、
「酷いな……AIの方がまだマシだ。ほんの少しだけでもいいから、こちらの動きを読んで行動してくれないか? ボタンを連打するだけのヌルゲーほど退屈なものはない」
一生、余裕の無崎。
――避けられたからといってロキは止まらない。
無崎が強いことぐらいは知っている。
一々、驚いてやる義理はなし。
続けざまの連撃。
ロキの舞うような二刀流ジャイロブレードを、
容易く片手で弾きつつ、高みからの嘲笑を浴びせる無崎。
ロキは、
「くっ……くぅっ!!」
『無慈悲な連撃』を無崎に叩き込む。
横払い! 袈裟(けさ)ぎり! ギュルンっとブーストを噴かせての回転切り!!
蛇の体躯を最大限利用した猛攻は芸術的な超絶技巧。
長蛇なフレームは、人型では不可能な、トリッキーで多角的なコンボを可能とする。
長い尾全体に配置された無数のブレイキングウェポンは、回避不能な弾幕を生み、その弾雨から逃れた獲物を、高リーチのジャイロブレードが刺す。
ダイアモンドバックは、その特異な形状ゆえ、操作難度は極めて高い。
だが、究めれば、アストロをも凌駕し得る潜在能力を秘めた、可能性を背負う狡猾な蛇。
ロキは、才能と努力で、このおてんばな蛇を屈服させてみせた。
常人では不可能な、人類の枠から抜け出た操作技術は、魂を焦がす鍛錬の結晶。
ロキは積んできた。
白鳥のように、人目のつく表では優美に振舞いながら、
見えない裏では、おびただしい量の血反吐を吐きながら、
誰よりも研鑽を積んできた。
ゆえに、全ての攻撃が、死の一閃。
『佐々波級の天才』でも『完璧な対応は不可能』な豪速。
人目のない舞台裏で、実際に吐血しながら反復してきた無限の流(りゅう)。
だが、無意味!
全てが容易(たやす)くさばかれる!
(この男! なんなんだ! 信じられない! どんな頭をしているんだ!!)
――ロキの、流麗な連撃が、無崎には、まるで通らない。
ロキは間違いなく天才。
『悪の天才』という以上に、
ロキは『ピッチングマシンを扱うという点において天才的』だった。
ロキの過去は、間違いなく『最悪』に分類される地獄だが、生まれ持った才能という点においては、誰もが嫉妬せざるを得ない『神の祝福』を受けていた。
天才的な頭脳。
天才的な操縦技能。
だから、誰もが恐れた。
これまでは、間違いなく、ロキが最強だった。
夜城院という最高峰の天才をも一蹴する高み。
彼とて、決して弱くはない。
彼だって、数少ない、『天からの祝福を受けし者』の一人。
夜城院は、最強クラスの兵器を持ち、最強クラスの戦闘技能を持つ天才。
しかし、容易くねじ伏せられた。
足下にも及ばなかった。
それが、ロキの見ている世界。
ゆえに、誰もが、彼女を忌避した。
ロキは強い。
本当に強い。
ピッチングマシンを扱う技術では世界最強クラス。
――だからこそ、ロキは、すぐに理解した。
(け、桁が違う……ま、まさか……ここまで差があるとはっ! こ、このわたくしが、赤子扱いだなんて!!)
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