第59話 もう、ヤンデレっていうレベルじゃねぇーぞ、オイ。
「ロキセンパイも知っていると思うっすけど、ボクとセンセーは朝陽南小学校の二キロ圏内に位置する朝陽東小学校出身。人心掌握術を勉強していた当時のセンセーは、丁度いいモルモットとして、木室とあなたを選んだんすよ。ほら、赤子って、手をひねるくらいなら簡単っすけど、『殺す』となると『色々な意味』で難しいじゃないっすか。果たして、他人に赤ちゃんを殺させる事が出来るか。そして、絶望を知った天才的頭脳を持つ子供は、その後どうなるのか。という二つの実験。判事の菅野(すがの)と蛇尾のジジイをあんたに送り込んだのもセンセーっすよ。どっちともセンセーの配下っすから。くくく……見事に踊ってくれたっすねぇ。楽しかったっすよ、ロキセンパイ」
ペラペラと軽やかに舌が跳ねる。
そんな佐々波の心中では、
(……ボクが小学校時代に請け負っていた任務は、木室敏樹というサイコパスの観察と調査。当時から既に、『巧妙に素性を隠しながら不特定多数に対する殺人予告』や『虫・動物を殺す動画投稿』をしていた、同い年のイカれた狂人を監察する任務。まあ、あれは任務っていうより、人間観察の訓練っすけどね。――とにかく、だから、知っているんだよ、蛇尾ロキ。お前の過去について、何もかも全部。ご都合主義? 知った事か。都合がよかろうが悪かろうが、それがボクとてめぇの現実だ。甘んじて受け入れるしかねぇんだよ)
「あんたが……元凶……あんたが……あんたが……何もかも全部……あんたがぁ……」
「マヌケっすねぇ。ずっと、センセーの掌(てのひら)の上で踊らされていたと気づけもせず、最終的には、その元凶に、長々と苦労話を語って……とうとう、泣いちゃったりなんかもして……ぷくく……ほんと、滑稽だったっすよ。とんでもないマヌケっす」
プツンと、何かが切れる音が、確かに聞こえた。
ロキは、血の涙を流しながら、
「テメェさえ、いなければぁあああああ!! クズがぁあああああ! 絶対に殺してやるぅううううう! ママをぉお! パパをぉおお! ルナをぉおおお! 返せぇええええええええええええ!!!」
慟哭(どうこく)の直後、
「ナショナルMマシン ダイヤモンドバック・ホンカクスターター/MAX210ギロ、登板準備開始ぃいいいいいいいいいいいい!!」
呼応するように出現したのは、『長い腕が生えているガラガラヘビ』をモチーフにしたピッチングマシン。
血の涙でコーティングされたような赤銅色のボディフレーム。
接続部分がバイオレットに輝く、なんとも毒々しい色調。
「パシフィックPマシン イーグル・マキュウクローザー/ナックルランチャー搭載機、登板準備開始!!」
佐々波も、即応して、ピッチングマシンを起動させる。
コンマ数秒後、互いのジャイロブレードが火花を散らす。
暴れ狂う、大量の兵器を積んだ蛇と鷲。
M機とP機。
火力の差は歴然。
だけれど、歪(いびつ)に拮抗(きっこう)する。
命を互角に削り合う。
この戦闘で、佐々波は、
惜しみなく、ナックルランチャーを使い、
ロキの猛撃をいなしてみせた。
「佐々波ぃ! 邪魔ぁぁああああああああ!」
「あはははははははははははははぁあ!」
ナックルランチャーは、数あるブレイキングウェポンの中でも、『最強』で『最弱』という特異な二つの性質を持つ魔究。
地面に固定するタイプなので足が完全に止まり、撃つたびに弾丸の性能(威力・弾速・弾数・形状・ホーミング機能の有無・その他もろもろ)が疑似ランダムで変化するという異質な特色を持つ、きわめて特殊な兵器であるため、『使いこなす』のは『不可能』とまで言われているイカれた兵器。
本来ならば、運任せのギャンブル兵器なのだが――
(3.25秒経過。乱数列、初期化。最多弾数ショットガンまで、あと5.75秒!)
彼女は、極めて優れた周期性を有するナックルランチャーの疑似乱数シードを見つけ出し、ナックルランチャーを、不確定なロマン兵器ではなく、ぶっ壊れの凶悪兵器として扱う事を可能としてみせた。
もちろん、パターンを百%網羅したわけではないが、M機の極悪兵器にも充分匹敵しうる暴力として運用する事を可能としてみせたのだ。
「鬱陶しいぃんだよぉお、佐々波ぃいいい! 死ねぇええ!」
人型に変形している鷲と、長い腕のある蛇が、互いの牙をぶつけあう異様な光景。
「はははっ。ねぇ、ロキセンパイ、今、どんな気持ち? ねぇ、今、どんな気持ち?」
通信システムをつないで、顔が見える状況で煽る佐々波。
「殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、絶対に殺す! 死んでも殺してやるぅううう!」
声は、スピーカーを通して、外部にも聞こえているため、
((ちょっ、あの人、何で、あんなキレてんの? ちょっ、マジでヤバい感じ……どういう事? なんで怒るの? ノっただけじゃん。もう、ほんと、訳わからん!
そんな無崎の混乱などクールにシカトして、
上品に視線を送る佐々波。
「上品センパイ! 何してんすか! ほら、一緒にロキセンパイを倒すんすよ。前みたいに共闘するっす」
「佐々波、さっき言うた事って、マジなんか? もし、ホンマやったら、ぅ、ウチ……」
「ありゃ? あの程度の事でセンセーの事が嫌いになったんすか? やれやれ。いいっすかぁ? あの頃のセンセーにも色々と事情があったんすよぉ。そう、色々とねぇ。くくく。そんな事より、ほら、はやく、手伝って、手伝って」
「……くっ」
上品は、どうすべきか悩んだが、
「あとで、その『色々』をキチンと説明して貰うで! 今は、佐々波! あんたとロキの戦いを止める! まずはそれから! セントラルPマシン タイガー・ギコウクローザー/170ギロ、登板準備開始!」
(くくっ。これで、無崎とロキの人間関係は終了。後は、上品をロキにぶつけて、両方を疲弊させ……どっちも潰す。これで、無崎はボクの……ボクだけのオモチャに戻る。無崎、無崎、無崎ぃい!! お前の視界に、他の女はいらねぇええ! お前の全部!! ボクだけのものぉおおおおお!!!)
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