第53話 いつだって完全勝利しかありえない無崎くん。


「あんたらの野究カードとか、別にいらないんで、渡してくれなくて結構っす。あんたら程度が入手できるクズカードなんか、センセーは一枚として必要としてないんすよ」


 そこで、無崎が、己のすぐ近くまで帰ってきた佐々波に視線を向けて、


 ((おい、佐々波。あの人達に命令なんてしないのと、カードを奪わないのは勿論だから、それはいいんだけど、何で、俺の秘密を言っちゃうんだよ。野究カードみたいなクソ兵器を創造したなんてバレたらサイコテロリスト認定されちゃうから、基本的には黙っておくって約束だったよね。


「誰も信じないっすよ。ノリよく遊びにつきあって貰ったんだから、ちゃんと最後までノリよくいかないと。厨二には厨二で返すのが礼儀だと前にも言ったっすよね?」


 他の人には聞こえない小さな声でボソっとそう言ってきた佐々波に、


 ((んー、そんなもんなの? 俺、お前しか友達いないから、大勢で遊ぶ時のルールとか知らないだよなぁ……


「なんすか、センセー。ボクを疑うんすか?」


 ((え、いや、それはないよ。


 無崎の佐々波に対する信頼は異常。

 お互いがお互いに依存しきっている歪な関係性。


 ((……んー、まあ、いいや。じゃあ、挨拶も終わったし、そろそろ帰ろうか。


「そうっすね」


 ((ああ、一応、センパイ達に、『他の超特待生にもよろしく』って言っておいて。ぁ、あと今日は楽しかったって。


「了解っす」


 二人がコソコソと話している間、

 幸田も、ミリアに視線を向け、

 耳元で、ボソっと、


「ミリア、例の連中に連絡しろ。こうなったら、十二人で囲って潰しちまおう。それしかねぇ。なんだったら、他の超特や、一般特待の連中にも連絡を――」


「幸田センパイ。センセーの御言葉を伝えるっす」


「ぁ、あ?」


「今日は楽しかった。見事な道化っぷりだった。褒めてつかわす」


(誰が道化だ、クソガキがぁ――)


「あと、他の七人の超特待連中に伝言を頼む」


「えっ?!」


「御苦労さん、もう帰っていい」


「「「っっ!!!」」」


 ((佐々波。七人って何? 超特別待遇生って全部で二十人だろ? ていうか、御苦労さんは目上の人には言っちゃいけないんだぞ。そう言う時はお疲れ様だ。いや、お疲れ様も、状況的におかしいだろ。挨拶しているだけなんだから、よろしくでいいだろ。


 無崎の訴えを無視して、


「じゃあ、皆さん、ごきげんよう。さあ、センセー、行きましょう」


 そう言って、無崎を立たせると、

 上品に視線を向け、


「ほら、上品センパイも。なにを呆然としてんすか。帰るっすよ」


「ぁ、ああ、うん。わかっとるよ」


 そう言って、駆け足で、無崎の背後につく。


(さっきの話……どういう事や? まさか、ホンマに、無崎はんが神様? いや、流石に、それは、ただのハッタリやろ……そうやな、流石にそんな訳……ぃや、でも……)


 交流室を出て、パタリとドアを閉めた所で、

 無崎は、佐々波に視線を送り、


 ((しっかし、あのセンパイら、ほんと、お前の言うとおり、凄ぇノリが良かったな。


 どこまでも呑気な無崎は、ポヤポヤと、


 ((本当にいいセンパイ達だよなぁ。全員、超天才なのに、俺みたいな、ただの無能を歓迎してくれるなんて。あくまでも、お前の友達として応対してくれただけだろうけど、マジで色々と楽しかった。


「天才とはいっても、所詮はただの人間っすから」


 ((はは。そうだな。


(無崎はんが何を言うとるか分からんけど、どうやら、あの超特待の連中も、自分と比べれば大した事はなかった、みたいな感じの事を言うとるみたいやな。神様どうこうはハッタリにしても、この人が『他の超特連中より遙かに格上やぁ』いうんが自惚れでも不遜でもなく、ただの事実やぁいうんやから、ほんま驚かされるわ。凄すぎるやろ、この人)


「ちなみに、センセー。今日のお楽しみ会はどうだったっすか?」


 ((楽しかったけど、ちょっと露骨すぎだよな? あれだろ? よくある手だろ? サークルの勧誘とかで、わざとこっちに勝たせて気持ち良くさせる、みたいな。いわば、接待ゲーム。そうじゃなきゃ、Aの5カードなんて来る訳ないからな。対抗するように、威圧的で高圧的な、ちょっと怖い感じのセンパイの手が絵札のフルハウス。完全にやりすぎの茶番だったけど、うん、本当に楽しかったよ。カイジの世界に入ったみたいだった。ただ、最後の問題は楽勝すぎたかなぁ。センエースでクイズを出すなら、もっと難度をディープにしてくれないと退屈、退屈。『センエース検定・究極超神級』で満点をたたき出した俺の実力は伊達ではないのだぜ。ふふん。あ、ちなみに言っておくと、究極超神級は、あんなもんじゃないから。もっと頭おかしいから。それで満点とっちゃう俺! テラヤバス!


「楽しんでもらえたようで何よりっす。色々セッティングした甲斐があったっす」


 言いながら、心の中で、


(セッティングしたのは、ポーカー勝負までだったんだが……まあ、いいや。これで、あいつらは退場。ロキに手を貸す事はない。ふふ。超特待組に対する牽制は、これにて完了。あとはロキを暴れさせて上品を潰すだけ)


 最後に、佐々波は、無崎を睨みつける。


(しっかし、無崎のヤツ、どんな運をしてやがんだ……あの場で『ガチ』にエースの5カードを引くとか……)


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