第51話 倍プッシュだ。
「これも、最初に言ったはずっす。センセーの運命力の前では、誰も何も出来ないと」
その言葉がキッカケになった。
幸田は、ギリっと奥歯をかみしめ、
「もう一勝負だ……」
佐々波を睨みつけ、
「超特待生伝統の勝負をする。公平な一回勝負。そっちが負けたら、チャラ。それだけでいい。それ以上は何も要求しねぇ」
「センセーの運命力にまだ挑むと?」
「受けるか受けねぇかを聞いてんだ! 全てにおいての絶対的な自信があるってなら、もちろん、当然、受けるよなぁぁあ!」
「別にいいっすよ。公平な勝負なら、センセーは絶対に負けないんで。それで、超特待生伝統の勝負ってなんすか? さすがに、そんな下らない事までは調べてないんで、ボクは知らないんすけど。上品センパイ、知っているっすか?」
「ウチも知らん。ここにきた事あらへんから」
「そうっすか。まあ、なんでもいいっすけど。どうせ、センセーが勝つんで」
「言ったなぁ」
「……ん?」
「今、確かに、勝負を受けると言ったなぁ」
「そうっすけど? なんすか?」
「確認しただけだ」
「ふーん。で、何をするんすか? バカラ? ブラックジャック? それとも、チェスや囲碁? まさかの龍名センパイを呼んでの将棋とか? 別にそれでもいいっすけど。将棋が上手いのも、決して龍名センパイだけの特技ではないんで」
種を明かすなら。
最初に龍名を潰した理由は、『このセリフ』が言いたかったから。
この場に龍名を持ってこさせないため、一番に彼女を潰した。
万能天才・佐々波も、流石に、将棋では彼女に勝てるかは微妙。
だからこその初手。
どこまでも用意周到な佐々波。
『ここまで』は『全て』が、『上品を潰すと決めた時』に演算した通り。
ここにいる連中が相手なら、公平でさえあれば、どんな勝負であろうと勝てる自信があるからこその暴挙。
何もかも順調。
しかし――
「っ……はっ……いや、なーに、きわめて単純で、実に公平な勝負だ」
そう言うと、幸田は、書棚に向かって歩いた。
そして、テキトーに一冊を取り出す。
それは、ブックカバーで覆われた、
『ハリーポ〇ターなみに分厚い本』だった。
「この本の328ページの15行目は何だ? 中を見ずに答えられたら、お前の勝ちだ」
「……はぁ? ちょっと、ちょっと。それのどこが公平な勝負っすか?」
「ほんまやで。いくらなんでも、ヒドすぎるやろう。そんなん答えられるわけないやん」
「あぁ? なに言ってんだ、公平だろうが。『真理とは』とか『神様は実在するか』とか『野究カードを創ったのは誰か?』みたいな、答えられるわけがない哲学系の問題なんかだとフェアじゃねぇが、この問いの場合、俺の、この、手の中に、明確な答えがあるんだからよぉ」
「ほな、あとで、そっちにも答えてもらうで。公平に、テキトーに選んだ本の一文を」
「言ったはずだ。公平な、『一回勝負』だと。この一回で勝負をつける。互いに問題を出し合うなんて言ったかぁ? あぁん?」
うぬぼれた天才を、確実に黙らせられる手段。
自分なら何でもできると思いこんでいる万能の天才だろうが何だろうが、絶対に解答不可能な、理不尽で高圧的なハンマーセッション。
どんな天才であろうと、『バカな屁理屈』や『世の不条理』の前では無力。
その摂理を叩き込むのが、この『超特待生徒伝統の勝負』である。
ようするには、新人イビリの単なるイヤがらせ。
「さあ、答えろや、無崎ぃ」
ニィっと笑っている幸田。
もはや、勝負をウヤムヤにする事しか考えていない。
だが、結果は、幸田の想像通りにはいかなかった。
――それまで不動だった無崎が、
ゆっくりと立ち上がり、
のっしのっしと幸田に近づいていく。
「ぅひぃっ……な、何だっ……な、何だよぉ?! き、キレるのは違うだろ!」
無崎は、幸田が手にしているブックカバーで覆われた本を数秒だけ観察すると、佐々波の元へと戻って、
「どうしたんすか、センセー。いったい――」
((……『俺は命の王。ゆえに敗北はありえない』
「……はい?」
((だから、答えだよ。あれは、センエースの三巻だ。三巻の328ページの15行目に書かれている一文は、主人公の魔王がタンカをきるセリフ『俺は命の王。ゆえに敗北はありえない』だ。
「……ぇ……まさか、全文を覚えてんすか? センエースって確か、すごく長いシリーズって言って――」
((全26巻。総ページ数は10591。総文字数は5932116。
「ページ数や文字数まで……ぃ、いや、でも、そもそも、ブックカバーがかかっていて、何の本か――」
((近づいて、よく見てみたら、ブックカバーのズレた部分、ほんの少しだけ見えている表紙の上の部分から、わずかだがソンキーの角が見えた。ソンキーが究極超神化3の状態で表紙を飾っているのは三巻だけだ。
「……」
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