第32話 ちょっと味付けが薄いやつな。
(決めた。また、あいつの黒い噂を大量に流してやる。学校の裏サイトをクラックして、『無崎のヤクザ指数』が『天文学的領域に達している』という無実を全校生徒に拡散してやる)
ニタァっと黒く笑う。
――小学生の時、彼女は、それを幾度(いくど)となく実践した。
無崎が、『どこどこのアイドルが可愛い』とか『華村さんって優しいよね』などというクソみたいな発言をするたびに、ハイテク機器のスペシャリストらしい手段で、無崎の評判を落としつつ、そのアイドルの枕営業歴を世間に暴露して潰したり、華村の家族に嫌がらせをして隣町に追いやったり。
今朝だって、佐々波は、華村を脅して転校させた。
無崎が『少しでも気にしている女』を同じクラスにさせておく訳にはいかないという、ただそれだけの理由で。
彼女は正式に狂っている。
ヤンデレという言葉でくくっていいのか悩むレベルの狂気。
(無崎。お前の全部を壊してやる。お前は永遠に、ボクだけの壊れた玩具であればいい)
と、そこで、
――ガラガラッと、扉が開いて、バカが登場した。
「おやおや、センセーじゃないっすか。どうしたんすか?」
八重歯がキラリと光る、ニタニタした表情。
((ぉ、佐々波も保健室にいたの? 偶然だね。いやぁ、実は、昨日買った本が面白すぎて、つい徹夜で読んじゃって、今、死ぬほど眠くてさぁ。
「ラノベ一冊読むのに徹夜って……センセー、本を読む速度、遅すぎじゃないっすか? 目ぇつぶって読んでんすか?」
((目をつぶってんのに本を一冊読み切るって、それ、凄過ぎて国に解剖されるレベルだろ。言っておくが、ラノベっつっても、センエースはだいたい、五百ページくらいあるからね。分厚さで言えばハリ〇ポッター以上だ。
「へぇ、かなりの分量なんすね。なら、納得できなくも――」
((それを二回読んだから、流石に、一晩くらいはかかるさ。
「……は? 二回?」
((俺、センエースは最低でも50回は読むから。ちなみに、最低でも50回な。一番好きな六巻とかは300回以上読み直しているよ。えっへん。
(こ、こいつ……ただのバカじゃなかった。……とんでもないキチ○イだった)
((ちなみに、佐々波はなんで保健室に? 具合でも悪いの?
「単純に寝ているだけっすよ。ボク、超特待で、授業に出なくていいんで」
((ああ、なんか、そんな事を言っていたね。いいなぁ。授業免除。俺も勉強せずに学校卒業したいなぁ。数学とか訳分かんないんだよね。なんだよ、因数分解って。あの『嫌がらせ』が俺の人生で必要になる場面なんて確実にゼロだと断定できるんだけど。
「暗殺対象は要人18人。丸対一人につきSPは45人。ミッションはSP含めた皆殺し。必要な銃弾は最低でも何発っすか?」
((は? なんで、急にそんな物騒な――
「18を9×2に、45を9×5に因数分解すれば、81×10で810。ほら、一瞬で解答が出た。センセーの人生で、因数分解が役に立ったっすね」
((へぇ、確かに、そうやったら二桁の暗算も簡単だね。ただ、一つ言わせてもらっていい? 俺の人生でSPが45人もいるような要人を18人も殺さなければいけなくなる事は絶対にないんだけど。俺にそんな、ゴルゴ感は皆無だろ?
(……ゴルゴ感で言えば、誰よりもあると思うけど……)
と、心の中で、一言いれてから、
佐々波は、コホンとセキをはさんで、
「ちなみに、超特待っていうのは、共通項でくくるだけの簡単な作業は勿論の事、空間図形の求積問題だろうが、漸化式を用いる確率だろうが楽勝っていうレベルじゃないと、なれないっすよ」
((漸化式? 誰の覚醒技だ?
「数列を再帰的に定める等式の事っす。ロジスティック写像やフィボナッチ数列が漸化式の簡単な例っすね」
((ああ、はいはい、アレな。ちょっと味付けが薄いヤツな。
「まさにそれっすねー」
((恐れずにツッコんでこい! そして、虫を見るような目を今すぐやめるんだ! 皆が皆、お前みたいな天才じゃないんだからな! ……あれ? でも、なんか、野球とかボクシングなんかの『スポーツ系超特別待遇生徒』ってのもいるんだろ? そいつら、漸化式なんて覚醒技、絶対に知らないだろ。
「そのかわり、手の皮がめくれるほどバットを振ったり、両足が疲労骨折するくらい走り込んだりしているっすよ。そういう努力、センセーに出来るんすか?」
((ははは、できない、できない。俺にとっては努力なんて二次元の産物だよ。
「努力を空想扱いとは、流石っすね」
一瞬だけ、本気の呆れ顔を浮かべてから、
「ボクら超特待は、その才能が国家によって直々に認められた、神に選ばれし超位存在。つまり、センセーでは死んでもなれないスーパーエリートって事っす」
((確かにお前は小一の時から別格に頭が良くて、テストは常に満点。ひきかえ、俺は、仮に頑張っても『下の中』が限界のおバカさん。お前の言っている事に間違いはない。――けどね、佐々波。そんな嫌味な言い方をしていたら、友達が減るよ。これはガチの忠告だから、注意してね。
「まさか、センセー、高一にもなって、まだ、友達なんて空想を信じているんすか? まったく、いつまでガキでいるつもりなんだか」
((友達という概念そのものを、根こそぎファンタジー扱いとは、流石っすね。
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