第29話 『無崎』VS『佐々波』

 

 ((俺みたいな、『モブ力(りょく)がハンパない地味根暗コミュ障』に惚れる女子なんている訳がない。女子という現金な生き物は、少女漫画に出てくるような完璧なイケメンしか求めていない。俺は詳しいんだ。


「ラノベの主人公とかって、特にイケメンでもない地味な量産型が、学校一の美女にモテまくるじゃないっすか。きっと、この世界はラノベ時空なんすよ」


 ((アホな事を言ってるんじゃないよ。大体、ラノベに出てくる非イケメン系量産型汎用主人公も、大概、何かしら強みを持っているだろう。幻想をブチ殺せたり、ソードスキルがハンパなかったり。俺、何にもないよ。全てにおいて、ザ・平均以下だからね。


「センセーにも強みはあるじゃないっすか。死ぬほど影が薄いから、誰にも愛されないっていう最強のステルススキルが」


 ((……『誰にも愛されない』って言っちゃったよ。しょっぱなから、前提に背負い投げを決めていくストロングスタイル。お前、さては、俺のこと、嫌いだな?


「あ、あと、野究カードや異世界について詳しいっていう強みがあるじゃないっすか」


 ((ああ、そう言えば、それがあったね。確かに、それは強みと言えなくはないかも。つーか、その件、完全に忘れてた。あっはっは。


(……どんだけ鳥頭なんだ。そこが肝だろ。本当に、バカだな、こいつ)


 ((その件も、結局謎のままなんだよなぁ。俺、なんなんだろうね。もしかして、宇宙人的な誰かさんに何かされたとか? 頭の中にチップ的な何かを埋め込まれた的な。


「ああ、だから、グレイみたいな顔してんすね」


 ((俺の顔は、穴三つだけじゃねぇって何度言わせんだ。だいたい、なんで、頭にチップ埋め込まれたからって、顔がグレイになるんだよ。


「ところで、センセー。今日、誰かに声をかけられたりしなかったっすか?」


 ((な、なんだよ、唐突に。別に誰からも話しかけられてないよ。


(まだ、接触していない、か。……ロキか、その配下の二階堂あたりが軽く絡んできているんじゃないかと思ったが……慎重になっているのか?)


 ((てか、この学校に入ってから、お前以外とまともに会話してないよ。


「ボクらのコレ、全然、まともな会話じゃないっすけどね。はたから見たら、完全にボクが一人でボケてるだけっす」


 ((ははっ、完全にヤバいヤツだね。


(てめぇが喋れねぇせいなのに、なに笑ってんだ。このクソ二重人格コミュ障バカが。……決めた。異世界のダンジョンに連れていって、はぐれたフリしておいてきてやる)


 嫌がらせを思いつくと、佐々波は、ニコっと微笑んで、


「ところで、センセー。今日の予定について話し合いたいんすけど、いいっすか? ボク的には、軽く異世界のダンジョン攻略でも、と思ってんすけど」


 ((あ、ごめんね。今日は予定があるんだ。


「ん? 予定ぇ? まさか……女っすか?」


 ((な訳ないから。今日は、センエースの最新刊発売日なんだよ。


「……センエース?」


 ((ラノベだよ。ぇ、うそ、知らない? マジで言ってる? かなりの有名作だよ? 二十六巻も出ていて、アニメも既に二期やっていて、三期もそろそろはじまるんだよ?


(本物のアホだな、このクソバカ……現状を考えろよ、カスが。どう考えても、お前が何者かを調べるのが先だろうが。というか、無崎の分際で、なに、サラっとボクの誘いを断ってんだ。目玉をくりぬいて、ボクの介護がないとまともに生活もできないような体にしてやろうか、あぁん?)


 ((ていうか、新刊が読みたいって理由がなくても、ダンジョンなんか行きたくないよ。もう二度と異世界とか行きたくない。


「色々なアイテムで武装しておかないと武闘派ヤンキーに絡まれた時大変っすよ? この学校には、国体で優勝したヤンキーボクサーの闘手とかもいるんすからね?」


 ((地獄だな。そんな人には死んでも関わりたくない……まあ、でも、現時点で、すでに、一応、Mマシンを持っているから、そう簡単に襲われたりしないだろ。


「M機は闘手にとって垂涎(すいぜん)モノの一品っすから、狙われる可能性は大っすよ。ハイエナ共を迎撃しようにも、センセーの頭じゃ、操作難度がエグいソッキュウクローザー型のM機なんて、まともに操縦できないっすよね?」


 (もちろん、無理。……Mマシンの操作技能は『運動神経』もしくは『頭の良さ』と比例するなんて設定にしなければよかったとガッツリ後悔しているよ。ちょっと試しに乗ってみたけど、まともに歩けもしなかった。自分で設定しておいてなんだけど、あれ、難しすぎ。


「だったら――」


 ((まあ、でも、なんとか騙し騙しやっていくよ。正直、このまま闘手関連のゴタゴタからフェードアウトしたいんだ。俺みたいな凡人が関われる世界じゃないからね。


(ちっ……仕方ない。出来れば使いたくない手だが……)


 佐々波は、そこで、グっと鳩尾に力をこめて、


「異世界に行くなら、上品センパイを誘ってもいいんすよ? センパイの前でカッコいい所とか見せたくないっすか? ボクがお手伝いすれば、冗談じゃなく、マジで惚れてくれるかもしれないっすよ」


 言いながらも、心の中では、


(まあ、実際には、糞カッコ悪い所を見せつけて呆れさせるだけだけどな。上品を物理的に排除するのは決定事項だが、それ以外にも、打てる手は全部打ってやる)


 そんな佐々波の内心になど気づく訳もない無崎は、ハハっと乾いた笑顔を浮かべ、


 ((むり、むり。カッコいい所なんて見せられないって。俺は己のスペックを十全に理解してる。それに、そもそも、俺は別に、上品さんの事が好きな訳じゃないしね。


「ぇ、そうなんすか?」


 ((美人だなぁ。一度でいいから、お話してみたいなぁ――と、思っただけ。だから、同じチームになるとか言われても戸惑いしかない。んー、なんて言うんだろう。芸能人に対する憧れっていうの? 上品さんみたいな人は、遠くから見ているのがベスト。憧れているのは事実だし、好意を持ってもらいたいとは思うけど、あんまり近くにいられると、眩しすぎて目が疲れる。


(どこまで凡人なんだ、このバカ。顔面は鬼ヤクザのくせに、中身は量産型のモブ同然……ん? ぃや、つぅか、それなら、ボクの美貌にも疲れろや! 殺すぞぉお!)


 ((じゃあ、俺、帰るから。また明日ね、佐々波。


「あ、ちょ」


 佐々波の制止を振り切って、さっさと帰ってしまった無崎の背中を睨みつけ、


(……ふざっけんな、ボケ。絶対にフェードアウトなんかさせるか。お前は永遠に、ボクのオモチャとして、闘手の世界で遊ぶんだ!! ボクという美少女にドップリと依存し、たまぁに男らしくボクを守る! それがお前の人生の全てなんだよぉおお!)


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