第28話 それぞれの思惑。


 『チームランキング一位 輝く狂乱』

 『個人ランキング一位  無崎朽矢』


 その結果を受けて、個人ランキング二位に落ちた蛇尾ロキは、


「おほほほほほ!」


 と、心の底から愉快そうに笑っていた。


「素晴らしい。まさか、こうも簡単に首位を奪われるとは……うふふ、流石と言わざるをえませんわ」


 部下の超級データサイエンティスト『二階堂』から受け取った報告書にも目を通し、


「たった一日で、難攻不落だったスカイタワー・メジャーを攻略し、Mマシンを入手。更には、かたくなに一匹狼を貫いていた上品をあっさりと籠絡(ろうらく)し、従順な配下にしてしまうだなんて……いやはや、想像以上ですわ、無崎さん」


「ほんと、ヤッバいよねぇ、無崎。流石に、ここまでとは思わなかったなぁ。『実は見た目がイカついだけのチンピラ』っていう線も考えていたんだけど、どうやら、見た目よりも、中身の方がイカついみたい。……生徒会に送られてきた『あのヤクザをどうにかしてほしい』って嘆願書も1000を超えたし。マジ、あの怪物、異常すぎるんだよねぇ……んー、で、ロキちゃん、どうするのぉ?」


「楽しい駆け引きをしてみるつもりです。ああ、心躍りますわぁ。果たして、わたくしは彼を口説き落とせるでしょうか。出来れば、わたくしがイニシアチブを取る、7:3の関係を築きたいと思っていたのですが、彼が味方になってくれるのであれば、五分五分でも構いません」


「楽しそうだねぇ、ロキちゃん」


「うふふ。お爺様以外で、初めて、まともな『対話』ができそうな相手を見つけたのです。高揚しない訳がありませんわ」


 ロキは待っていた。

 この世界を悪に染める手足。

 あるいは頭脳。

 とにかく、同じ想いを抱く同族。

 あのヤクザは、ずっと待ち望んでいた、自分の相棒になりえる魔王。


「お爺様、わたくし、ついにパートナーを見つけましたわ。彼はきっと、お爺様以上の悪。『闇社会の帝王』と恐れられたお爺様をも超える、混沌を貪りし大魔王」


 ロキは確信する。

 無崎朽矢となら、きっと、楽しい対話ができる。


「さあ、無崎さん、語り合いましょう。お爺様に鍛え上げられたわたくしの鋭利で精緻(せんち)な悪と、あなたの、魂から滲(にじ)み出る圧倒的で暴力的な狂気が混ざり合った時、きっと、あなたの望み通り、世界は輝くような狂乱に包まれる」




 ★




 第二校舎の屋上で、スマホを片手にランキング結果を確認した佐々波は、

 いつもの黒い笑顔を浮かべて、


(くく……ランク最上位級の『ボクと上品』が持っていた野究カードを全部、無崎との共有物として登録し直したんだから、無崎が一位になるのは当然。これだけ目立たせれば、今まで静観を決め込んでいた連中も動かざるをえない。ボクらにケンカを売る闘手共との戦いで、上品(じょうひん)を『盾』として使い潰してやる。上品里桜……すぐに、無崎の前から消してやるからな。覚悟しておけ!)


 闘手同士が野究カードの奪い合い・潰し合いをするのは日常茶飯事。

 パイの奪い合いこそが世の摂理。


(……こうなると、あの時に蹴り飛ばした事が悔やまれるな。あの時、イラつきを我慢していれば、こんな苦労をしなくとも、あの時に上品は死んでいたのに! くそったれが!)


 もはや、佐々波には躊躇(ちゅうちょ)も甘えも慈悲もない。

 佐々波の中に、ほんのわずかに残っていた『情』は死んだ。

 逆説的だが、愛の怪物は無情の羅刹。


 『絶対に上品を殺す』という決意と覚悟が爆発。

 もう、誰にも佐々波を止めることは出来ない。


(無崎で遊んでいいのはボクだけ……この佐々波恋だけの特権だ。この権利だけは、誰にも絶対に、死んでもゆずらない!)


 そんな事を考えていると、静かに扉が開いた。


 現れた男の顔を見て、佐々波はニィっと笑い、


「ちーっす、センセー。今日も顔がペッパーくんみたいっすねぇ」


 ((あんな穴三つしかないような顔はしてないよ。いい加減にしろ。


 という、不愉快そうな表情を見せてから、


 ((つか、昨日の事、ちゃんと説明してよ。もう色々と謎すぎて、何か怖いんだよ。


「昨日、帰る時に説明したじゃないっすか。気絶しちゃったセンセーを守るために、ボクが、仕方なく、他人を操作できる汎用野究カードで操って諸々の対処をしたって」


 ((その件は、もういい。お前が、いつものように俺を助けてくれた。その事には、ただただ感謝している。毎度、ありがとう。……それよりも、そのあとの件が問題。


「なんすか?」


 ((だから、その……き、き、キスの件だよ。何やってんだよ、お前。俺、あれがファーストキスなんですけど。


「いやぁ、海外生活が長かったんで、『気分が高揚するとキスする』っていうのがクセになってたんすよねぇ」


 ((そ、そんな、安いノリで、俺のファーストキスを奪ったのか! てめぇ!


 などと童貞ムーブをかましてくる無崎に、

 佐々波は、冷めた心で、


(……最初に奪ってきたのは、テメェだけどな。ていうか、マジで覚えてないのか、死ね。口と口があたるくらい、どうでもいいけど、覚えていないとは何事だ。死ね)


 表情には出さず、心の中だけで、そう吐き捨ててから、


「やれやれ、センセー。キスがどうだの、ファーストがなんちゃらだのと、そんな中高生みたいな事言わないでほしいっすねぇ」


 ((中高生のど真ん中ですけど?! 我、高一ぞ?!


(ぁ、そっか。見た目が、『1万%ヤクザ』だから、忘れていたけど、このバカ、高校生だった)


 ((それと、上品さんの件も、どうなってんの? 結局、あの人は、俺たちのチームに入ったの?


「いやいや……その件に関しては、センセーが了承したんじゃないっすか」


 ((何がなんだか分からず、頷いちゃっただけだよ。なぁ、佐々波。なんで、あの人は、急に、俺たちのチームに入りたいとか言ってきたの?


「さぁ? センセーに惚れたからじゃないっすか?」


 ((はぁ? ……まったく……やれやれ、アホな事を……


 無崎は、ムカつく表情を浮かべて、


 ((俺みたいな、『モブ力(りょく)がハンパない地味根暗コミュ障』に惚れる女子なんている訳がない。女子という現金な生き物は、少女漫画に出てくるような完璧なイケメンしか求めていない。俺は詳しいんだ。


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