第26話 すべてをのみこむ鬼の輝き。


 縦横無尽の最奥で駆け抜ける、その威容たるや綺羅星のごとし。

 異星人であるイス人に相応しい、

 宇宙を擬人化したような、

 混沌と静寂を体現した独特のスタイル。


 パッと見は、雷神。

 流線形の頭部と脚部、両腕は細く長い。

 何よりも特徴的なのは、発光する羽衣。

 背中から生えている六本の剣は翼であり後光。

 フレームは、『星の輝き』を模(も)した聖銀で、接続部分は脈動する漆黒。


 その様は、まさしく、全てを飲み込む宇宙(そら)の雷鬼神。

 紙装甲だが、出力は他の追随(ついずい)を許さない、超火力特化型の強襲機。


 ――イス無崎のアストロは、ブーストを吹かせる。

 勢いよく、『距離を取ろうとしているジャイアント』の懐に潜り込むと、右手でGの右腕を強く握りしめ、腹部に左足を押しつけて、思いっきり引き千切った。

 ギリギリギリブチィッ!!

 という、金属がねじりきれる重厚な爆切音が空間に響き渡る。


 ――イス無崎は止まらない。


 損傷部に向けて、『高速スクリューショットガン』をつきつける。

 パァンっと弾ける散弾の恫喝(どうかつ)。

 『ゼロ距離で受けた無数の弾丸』が心臓部まで届き、

 ジャイアントの量子回路を破壊する。


 続けて、ドジャーの牽制(ドロップバルカンのバラまき)を最小の動きで回避しつつ、ほぼ一瞬で密接距離を確保。

 後光の一本、ハイスピンジャイロブレードを抜き、出力を上げる事でプレッシャーをかける。

 ――ドジャーは死を想う。

 絶望の高速演算。

 どうやら、キュビットも悲鳴をあげるらしい。


 必死で回避しようとするドジャーの可愛い事。

 すべてが遅すぎた。

 煌(きら)めいたと感じた時には終わっている。


 『夜明け前』よりも瑠璃(るり)色な一閃。

 ズバァっと、腹部を一刀。


 真っ二つに裂かれたドジャーは、光を失い、力なく、ズズゥンと地に落ちる。

 イス無崎は、そんなドジャーに一瞥(いちべつ)も投げず、静かに両目を閉じて、ただ悠然(ゆうぜん)と瞑想していた。


 優艶(ゆうえん)な残心。

 勝利後に見られる『心身の構え』だけでも、『格の違い』がうかがえる。


 驚くほど呆気ない結末。

 イス無崎が登場した途端、

 ほぼ一瞬で、全てが終わってしまった。


「ふむ……流石はクローザー型のソッキュウ機。装甲は紙だが、火力は飛びぬけている。悪くはない。私にふさわしいとは思わないがね」


 ボソっと呟くイス無崎の背中を見ながら、

 佐々波はニッっと、ほほ笑み、


(……無崎のくせに……なに、マジで格好いい所見せてんだよ。……生意気)


 イーグルを野究カードに戻して、

 生身に戻ると、その場にペタンと座り込んだ。


 天を仰(あお)ぎ、反射でこぼす、柔らかなタメ息。

 それは、滅多に見られない、とても爽やかな顔。


 ――そんな佐々波の背後で、上品は呆(ほう)けていた。


(な、なんやねん……凄すぎるやろ。操縦が極端に難しいM機のソッキュウ型をあそこまで華麗に駆(か)るやなんて……あれが無崎朽矢……あかん、超絶カッッコええぇ……)


 彼女が熱い視線を送っている相手――イス無崎は、


(ん……そろそろ無崎が起きるな。私の時間もここまでか)




 ★




 ――目を覚ました『無崎』は、

 当然、パニック状態に陥った。


(ん? なに、この状況……なんだ、このメカメカしい感じ……ぇ、うそ……まさか、俺、コックピットの中にいる? はぁ?)


 無様にオロオロしながらも、なんとか情報を得ようと、拡張モニターに目を向ける。


(ジャイアントが死んでる……あ、ドジャーもいる。なんで、真っ二つ……ってか、なんで俺はMマシンに乗っているの? ぉいおい、勘弁してくれよ。一から十まで訳わからん……ぇ、ちょっ、マジでどういう状況? なんか、怖いんだけど)


 と、そこで無崎は、

 背後に、佐々波と上品がいるのに気づく。


 アストロを野究カード状態にして、

 己の両目で佐々波に視線を送り、


 ((佐々波。助けて。訳わからん。どういう状況? なんで、ジャイアントとドジャーが死んでんの? そもそも、なんで、俺はアストロに乗ってたの?


 そのド直球な困惑を受けて、

 佐々波は、


(……自分がやったくせに記憶がない? ――『実は今まで正体を隠していただけで、さっきまでの姿が本来の無崎』という可能性も考えていたんだが、どうやら、そうではなさそう……まさか、マジの解離性障害か?)


 頭を回して状況を整理しようとしてみたが、

 少々時間がかかりそうなので、


(とにかく、今はもう、ボクが知っている無崎に戻っているっぽい……なら……)


 ニタァっと笑って、


「いやいやいやぁ、さっすが、ボクのセンセー」


 いつも以上に黒くほほ笑みながら、

 無崎に近づき、


「相変わらず、本気になると、超スタリッシュっすねぇ」


 ((? 何言ってんの、お前。ていうか、説明してくんない? 状況が、マジで全く理解でき――


 表情だけで助けを求めていた無崎の口を、

 佐々波は、『唇』で、ズキュゥンとふさぐ。


「――っっっ?!」


「んーんーんー♪」


 『このくらいは、いつもの事ですよ』とでも言いたげな軽いノリで無崎に抱きついてキスをする佐々波。

 快楽を貪り、愛欲の意味を確かめる。

 そんな、ゼロ距離のディープ。


(な、な、な、何やってんのぉ?! いやいや……マジで……はぁああ?!)


 困惑が止まらない無崎。

 そんな彼の顔を見るのが楽しくて仕方がない佐々波。


 あまりの衝撃に固まっている無崎から離れ、

 彼の目を見つめながら、


(多重人格か何か知らんけど、このボクに、ナメた口をきいて、偉そうに命令し、あまつさえ初チューまで奪ったんだ。その罪、万死に値する。お前の人間関係、しっちゃかめっちゃかにしてやるからな。覚悟しておけ、無崎)


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