第24話 センセーともっと遊びたかったなぁ。


 上品は舞う。

 死を覚悟した乱舞。


 最後まで抗い続けると決めた覚悟。

 そのメンタルだけは天晴(あっぱれ)。

 けれど、『結果』は、目も当てられない惨状。


 その無様極まる『無駄な抵抗』を見て、だから、

 佐々波は、


「……きっもぉ」


 心底しんどそうな表情でそう吐き捨てた。


(皆が幸せだぁ? それ、どこのディストピア? ぉぇぇ、きっしょぉ……まさかの、脳内ハレ晴れユカイなガチキ○ガイとか、草も生えねぇってのっ。リアリストの拝金主義者かと思ったら、脳漿お花畑の平和主義者なクソ偽善者だった件。いやいや、しんどい、しんどい。ぁあ、きっっしょいわぁ。めっちゃ、鳥肌が立ってんだけど)


 あまりの気持ち悪さに、


「……なんっなんだよ、今日……次から次に、死ぬほど鬱陶しい事ばっかり……ぁあ、もう、マジでイラついてきた」


 キレた佐々波は、両手の関節をボキボキっと鳴らして、操縦捍をギュっと握りしめた。


「思い残すことなく、カッコよく死ねるなんて思うなよ、偽善バカがぁ」


 飛行形態に変形してブーストを吹かせる。

 超高速で戦場のど真ん中に飛び込み、

 慣性に乗った状態を維持したまま変形を解除。


 ギュっと体を反転させ、タイガーの背中を、思いっきり蹴り飛ばした。


「っっ?! 佐々波! な、何を!」


「いい加減にしろよ、ゴミ共ぉお! なんで、この超天才美少女・佐々波恋様が、てめぇ等みたいなカス共の言う通りに動かなきゃいけないんだ! いつだって、ボクに命令できるのはボクだけなんだよぉおお!」


「なにを言っとん――ぁ、危ないでっ!!」


「ぐっ!」


 回避が間に合わず、

 ジャイアントのジャイロブレードをモロに受けた佐々波のイーグル。

 右脚部が切り飛ばされ、グラっと、バランスが崩れる。

 小刻みにブーストを吹かせて、どうにか体勢を整えようとするが、

 当然、まったく上手くいかない。


「アホなんかぁ! 逃げろぉ言うてるやろ、ぼけぇ! あんたまで死んだら、誰がウチの想いを無崎はんに伝えんねん!」


「黙れ、死ねぇ! てめぇの想いなんざ、知るか、ぼけぇ! 死ねぇえ!」


 叫びは、弾幕の轟音にかすむ。

 ジャイアントとドジャーの猛攻は止まらない。


 バランスが崩れて動きが鈍くなっている佐々波のイーグルは、恰好の的。


 あっさりと右腕が吹っ飛ばされて、

 その場にズズンっと倒れこむ。


(ダメだ。もう、こうなったら、立つのも難しい。……ちっ……)


 最後の抵抗として、上半身を起こして、どうにか左手で、ジャイロブレードを盾代わりに構えるが、あっさりと蹴り飛ばされて無防備になる。


 ジャイアントは、イーグルにトドメをさそうと、背負っている三丁のパームレーザーを合体させる。

 トリプレット・パームレーザーの銃身が光り輝く。


 ギガロ粒子が一点に収束していく。


 それを見ると、佐々波の時間が圧縮された。

 死を前にして時間の感覚が狂う。

 誰にでも起こりえる、あるある現象。

 命の鉄火場における、走馬灯は大忙し。

 あっちこっちで、クルクル、クルクル。


「……死にかけている今のボクに、三倍出力のゲロビとか……ははっ、クソ無意味ぃ。どうしても、オーバーキルで殺したいってぇ? 性格悪いっすねぇ。超ドSぅ」


 『歪んだ嗜虐性の暴走』などではない。

 単なるAIの変則パターン。

 トドメが刺せそうで、トリプレットのリロードが終了した。

 だから、撃つ。

 たったそれだけの、機械的な話。


「ぁーあ……はは……」


 佐々波は、どこか呑気に、天を仰ぎ、


「もぅちょっと、センセーで遊びたかったっすねぇ……」


 呟きながら、心の中で思う。

 圧縮された時間の中で、

 とめどなく溢れるエピソード記憶。


(もし、ボクが普通の人間で、普通にあのアホと出会っていたら今頃どういう関係に……いや、ボクがパンピーだったら、あいつの中身がヘタレだって気づけなかったか……)


 ――佐々波恋は、江戸時代から代々続く由緒正しい忍の家に生まれた。

 物心つく前から、完璧な諜報員になるための、ありとあらゆる特殊訓練を施され、幼い頃から国防に関わる重要任務につかされてきた。


 実の親と国家に酷使され、多種多様な地獄を見てきた佐々波の心はとっくの昔に壊れている。

 そんな彼女にとって、偽装の一環で潜入していた小学校で出会った無崎との日々だけが、そのクソみたいな人生における唯一の宝物。


(……ヘタれた臆病者のくせに、ボクを守ろうと、命をかえりみずに闘ってくれたバカ野郎……)


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