第23話 おねだりの伝言。
「まさか、あんたと共闘する日がくるやなんて……まったく想定してへんかったわ」
上品が、援護にきてくれた佐々波に、Pマシンの通信システムを使って話しかけると、
「……他人様を助けるとか、ボクのキャラじゃないんで、本当はイヤなんすけどねぇ。センセーの命令は絶対っすから」
言いながら、心の中で、
(あのボケ……オモチャの分際で、調子に乗りやがって。決めた。これまで以上に激しく遊んでやる。徹底的に貶めて、社会的に殺してやる。もっともっとボクに依存させて、ボクがいないと歩けもしないレベルにまで落としてやる。覚悟しておけ)
佐々波の加勢で、状況は多少マシになったが、
しかし、Mマシンの性能は、流石に半端ではなく、
「くっ! やっぱ、Pマシンでは相手にならん! 装甲と火力が違いすぎんねん!」
枚数有利で対応しているのに、ゴリゴリと押されていく。
前衛で回避タンクを担っている上品のタイガーは、
すでにボロボロで、もはやガラクタ同然。
(そろそろ、上品のタイガーは死ぬな)
損壊具合を目認して、佐々波は舌舐めずりをする。
(上品がジャイアントに殺されたら、『無崎が殺った』という事にして、全校中に広めてやる……ボクにナメた口をきいたんだ。ただでは済まさない。お前は、より孤独になる。そして、永遠に、ボクだけを頼りにして生きていくんだ)
黒い笑みを浮かべていると、
どこからか声が響いた。
『戦闘開始から一定時間の経過を確認。第一級迎撃プログラム起動。《ドジャー・ナントウセットアッパー/MAX190ギロ》のストラトスジオメトリ生成』
どこからか声が響き渡った。
そして、宣言される。
『 ドジャー 登板準備完了 』
やがて、奇怪なジオメトリは、地面だけでなく空間中を覆い尽くす。
――プシュウ――
顕現する、もう一体のMマシン。
プシュウゥウ、プシュゥ……
そこでは、ライフルを背負ったドッジボールが浮遊していた。
球状小型の機体。
緊急回避機能がケタ違いに高い、タイガーとは比較にならないほど回避タンクとして超特化したオプションタイプの無人Mマシン。
追加投入されたドジャーを目の当たりにして、
上品の気力が溶けた。
(に、二体……は……無理や……)
明確な絶望を前にして折れる心。
――そんな上品の背後で、佐々波が、
(ちぃっ……ジャイアント一体だけなら、上品を盾にする事で、いくらでも逃げられる……が、二体になると、逃げるだけでもキツい……ガチでヤバくなってきた……どうする)
『全天リニアシート式になっているPマシン』のコックピット内で、カリカリと左手親指の爪をかむ。
(ジャイアントとドジャーのタッグは相性抜群。死角は皆無。上品を盾にできる時間は数秒が限度。変形したイーグルのブースト速度でも逃げ切れない。超距離狙撃用高速スライダーライフルで狙い撃たれて死ぬ)
どうやって逃げるか必死に考えていると、
「佐々波……逃げぇ」
「……ぁ?」
「ウチのタイガーはまだ動ける。どうにか、あんたが逃げきるだけの時間は稼いだるから……さっさと逃げぇ」
ギギギっと、ポンコツな音。
まるで死にかけのギター。
耳ざわりな悲痛の呻き。
タイガーは、ジャイロブレードを吐き捨て、背中に背負っている三本のドロップバルカンをパージする。
これでかなり軽くなった。
スペシャルブレイキングウェポン『ドロップバルカン』は、本来なら、極悪な戦闘兵器。
けれど、Mマシン二機の前では豆鉄砲。
怪物を前に、自ら、爪と牙を、ひっこ抜いて立つ、死にかけの小猫。
(ボロ雑巾が、なに、ヒロイズムに浸ってカッコつけてんだ。テメェがクソの役にも立たねぇから、こっちは困ってんだろうが。……ったく、これだから、無能は嫌いなんだ)
心の中で毒を吐いている佐々波に、
上品は、あくまでも、
「あんたの回避盾になったる。その代わり、ウチの頼みを聞いてくれへんか?」
残っているギガロ粒子をフルで噴かせて、ジャイアントとドジャーの懐に飛び込むタイガー。
囮に徹すれば、即死はしない。
ブースト計算は誰よりも得意だという自負がある。オーバヒートに気をつけながら、ヘイトをコントロールしつつ、
「世界を買ってほしいと……無崎はんに、ねだってくれ」
「は?」
「あれほどの男に買えんモンはない。無崎朽矢なら、この世界を――『変える』ことができる。あの究極超人なら、この世に蔓延(まんえん)する絶望を駆逐する程度は造作もないことやろう。『会って一時間も経ってへんのに至った確信』が何よりの証明。――せやからたくす」
(あのドヘタレ糞虫に、世界をたくす? 頭、バグってんのか、この女。こちとら、冗談は、無崎の顔だけでお腹一杯なんだよ、ぼけぇ)
「ぁあ、一目でエエから見たかったなぁ。皆が幸せに笑っとる、ホンマの理想郷……」
最後にボソっとそう呟いて、通信を切断した。
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