第19話 沸騰する無崎。
――『上品が殺される』。
そう思った瞬間、
無崎の頭は沸騰した。
(やべぇ! あの人、死ぬ!)
感情が弾けた。
沸騰する脳髄。
恐怖・不安・困惑……それら全てを置き去りにして、
『助けなければ』という神経衝撃だけが全身を駆け巡る。
反射が二度見する。
責任を転嫁(てんか)するニューロン。
いつだって、『アホのリビドー』は、
理性という『人類の財産』をないがしろにする。
気づいた時には、
佐々波のツーシームブレードを奪い取って駆け出していた。
背後で響く、
「げぇっ! やめろ、無崎! バカか!」
本気で焦って止めようとしている佐々波の叫び声。
――だが、沸騰している無崎の耳には届かない。
そして、無我夢中で上品を突き飛ばし、
ジャイアントに吹っ飛ばされた所で、
……無崎の意識は途切れる。
完全に気を失った無崎の体を支配したのは、
無崎のコスモに宿ったフラグメント。
「――さあ、始めよう。ここからは、私の時間だ」
一時的に、『無崎(体)』の主導権を得たイス人は、
「プロ級程度の武装野究カードでも、使い方次第ではM機に対抗でき得るという、量子論的な『存在値の格差』をお見せしよう」
左腕に巻かれたスキャナーに通したのは、プロ級武装野究カード。
『128ギロのスライダーライフル ランクB/インハイ』。
右手に握られているライフルは、メカメカしいサイバーチックな未来型の狙撃用ライフル。
銃身は白銀で、接続部分が赤々しく脈動している。
全体に、謎のスイッチや計器が配置されており、
常時チラチラとギガロ粒子を放出していた。
「ん……初期設定か。まあ、楽でいいが」
そうつぶやくと、『イス無崎』は、セーフティーを押したまま、
キャリブレーションボタンを押して、
二対になっているトリガーの右側だけを二回引いた。
すると、銃身の上に、エアディスプレイが浮かぶ。
このスライダーライフルが、どのようなシステム構造になっているか一目で分かる空中ウィンドウ。
「さて、少しは使えるようにさせてもらおうか」
エアウィンドウを二回タップすると、
オルターモードに切り替わる。
スススっと指を高速で動かし、FCSの性能をイジっていく。
驚くほど高速で動く指が、スライダーライフルのシステムを書き換えていく。
そんな無崎と、『なぜか停止しているMマシン』を交互に見ていた上品が、
「な、なぁ……あの無人Mマシン、なんで動かんようになったん? 死んだん? てか、あんた……な、何をしとんの?」
「ジャイアントは、現在、38秒間の警戒カウンターモードに移行している。そして、私は、今、このスライダーライフルの設定を書き換えている」
「ブレイキングウェポンを改造しとるってこと? ……そ、そんなん、できんの?」
「貴様でも、プログラムモジュールの構成を変更し、アプリケーションを切り替えるくらいなら出来るだろう。だが、今の私がやっているような、ISROMを書き換えて、FCSの演算性能に上方修正を加えるようなマネは出来ない。まあ、イグニッションGギアの値を変更して、ギガロ粒子制御のリミットを幾許(いくばく)か解除するチューンくらいなら……ぃや、無理だろうな。貴様のスペックでは、壊滅的に処理速度が足りない」
会話中も、無崎の左手は止まらない。
上品はそのディスプレイの中を覗きこんでみた。
並んでいる数字や記号が、
――恐ろしい速度で書き換えられていく。
(な、何やっとんのか、ウチでも一個も分からへん。フーリエ変換、微分積分、幾何、線形代数……アホでも分かる基礎レベルの処理ですら、一々理解不能。てか……は、速すぎる。どんな速度でコードを書いてんねん。マンガのハッカーかっ!)
音速で設定を変更すると、
イス無崎は、
「これで、『疑似・高速スライダーライフル』の完成。ギガロ粒子の濃度をかなり上げたが、なんとか、二発くらいは耐えられるだろう」
そう言うと、もう一枚の野究カードをスキャナーに通す。
左手に収まる『150ギロのストレートブレード』。
淡く輝いている神字と、煌々とした紅の電流を纏いし、まるで、この世の全てでも切り裂けそうな白銀の剣。
「警戒モードに移行してから25秒。そろそろ動き出すな。上品、佐々波。動くなよ。貴様らの居場所を安全地帯にしつつ闘う」
「は? なんやて? ぁ、あんた、さっきから、いったい、どういう……」
「おしゃべりの時間は終了。ここからは、お遊戯の時間だ」
そう宣言すると同時に、ストレートブレードを肩にかつぎ、ライフルの銃口をMマシンに向ける。
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