第13話 無数の世界を創った神様。


 説明を受けた佐々波は、バカを見る顔で笑って、


「なんすか? じゃあ、センセーは、数多(あまた)の異世界や、非常識な未来兵器を創った神様って事っすか?」


 ((いや、そうは言わないけれど……


「ボクの気を引きたいという気持ちは分からないでもないっすよ? ボクみたいな、知性と色気が国宝級の超絶天才美少女に『すごーい』『濡れるぅ』と言われたいという、その男心は理解できるんすけど――」


 ((ウソじゃないんだって。確かに、自分でも奇妙だと思っているよ。でも――


「じゃあ、証拠を見せてほしいっすね。たとえば、このMワールドのどこにMマシンが隠されているか、とか」


 完全にバカにした口調でそういう佐々波。


 『しょうもないウソには付き合っていられない』という表情をしている佐々波の顔が――




 ((スカイタワー・メジャーのてっぺんに、一つ設置した。




 ――一瞬でひきつった。

 いつものニタニタした顔ではなく、キュっと口元が一文字に引き締まった真剣な表情。数秒、ダンマリを決め込んでから、


「……スカイタワー・メジャーの150階より上に進む方法は?」


 ((ぁ、それならギリ覚えているぞ。えっと、確か……全階層の自販機に隠し文字が設定されていて、全てを集めると数学の難問になるんだ。で、その難問を解く事で入手できるパスワードをエレベーターに打ち込むと、151階に行ける。『高難度である』としか設定していないから、どんな問題になっているかは分からないけれど、パスワードは覚えているよ。確か――


「もういい」


 低い声でそう呟くと、佐々波は、顎に手を当てて、真剣な顔で考え込み始める。


(……本物だ。ただの妄言じゃない。……まさか、本当にこのバカが創った? いや、そうとは限らない。野究カードや異世界についての情報を、夢の中で『神的な何か』から『受信していただけ』という可能性もある。……もしそうだったら、それはそれで大概だが……)


 頭の中で、様々な可能性を検討する佐々波。

 優れた頭脳がフル回転する。


 しかし、答えには辿り着けない。

 現状では、あまりにも情報が少なすぎる。


(何にせよ、このバカが野究カードの情報を持っているというのは、どうやら事実……)


 ((な、なぁ、佐々波。


「ん? なんすか?」


 ((もし、本当に野究カードが実在するなら、俺、そんなもんに関わりたくないんだけど。


「そんなもんって、センセーの創作物じゃないっすか」


 ((ゲームのシステムとしてなら面白いかもと思っただけで、現実にあってほしいと願った訳じゃない。『てのひらサイズに収納できる凶悪兵器』なんて、ただの最悪な危険物だ。そんなヤベェ危険物で殺し合っている世界なんて、絶対に関わりたくない。戦争反対! 全人類が憲法九条を守るべき!


「ほむほむ……で、つまり、何が言いたいんすか?」


 ((正直、聞かなかった事にしたい。そんなモノは存在するはずがない――と、耳と目をふさいで生きていきたい。非日常とかダメ絶対! 退屈な日常に祝福を!


(……相変わらずのドヘタレぶり。顔面以外は、ただの凡人。……くく……あぁ、面白い。イジり甲斐があって、かつ、究極の情報を持つオモチャ。逃がす訳ないだろ、ばぁか)


 心の中で、真黒な笑みを浮かべ、しかし、表には一切出さず、


「センセー、残念っすけど、現実逃避しても、野究カードが実在するという事実は消えないっすよ。そして、この学校に在籍(ざいせき)している『特待生以上の生徒』――つまりは100人くらいが、野究カードを所持しているという事実も」


 ((ぅぇえ?! 野究カードを持っている人って、そんなに沢山いるの?! 一クラスに一人くらいは持っている人がいるって計算じゃねぇか?! この学校、どんな地獄?! 怖くて、廊下も歩けねぇ!


「だから、センセーも武装しないと。ボクも野究カードを何枚か持っているんで、側にいる時なら守ってあげられるんすけど、当然、常に一緒にいる訳ではないんで、一人の時に、自分を守るための野究カードを持っておいた方がいいと思うんすよ」


 ((た、確かに……でも、俺、武器を持っていた所で、使う勇気とかないし……それに、野究カードって、『運動神経』とか『頭』とかが良くないと使えないって設定の武器だから、バカで運動オンチの俺じゃあ……


「別に使わなくても、『持っているだけ』で抑止力になるっす。核と同じっすね。実際、ボクも、強力な野究カードを手に入れてからは、誰も絡んでこなくなったっすから」


 ((そ、そうなんだ……で、でも、俺、そもそも野究カードを手に入れられる気がしないんだけど。確かに、どこに隠したとかは、それなりに覚えているけれど、それを守っているモンスターとかには勝てる気がしない。


「モンスターの弱点とか攻略方法も知ってんじゃないんすか?」


 ((確かに少しは知っているよ。たとえば、スカイタワーの最上階でMマシンを守っている人型ガーディアンは、難しい数学の問題を出してくるんだけれど、それにいくら答えても無駄。実は心臓部が弱点で、かつ、そこに野究カードを隠しているから、貫けば殺せるし、奪い取れる……のだけれど……魚をさばく事もできない俺に、人型生命体の心臓を貫くとか、絶対にできない。ヘタレの俺にモンスター退治とか一生無理。つまり、情報なんてあるだけ無駄。ネコに小判。豚に真珠。というわけで……ど、どうしよう……佐々波……


 すがりついてくる無崎を見て、心の中で舌舐めずりをする佐々波。


「んー、じゃあ、センセー、ボクが、センセーのチームメイトになってあげるっす」


 ((チーム?


「そう。センセーとボクは盟友。一緒にいるときに守り合うのはもちろんのこと、野究カードを探索する時も当然手を貸す。超絶優秀なこのボクが手を貸せば、流石に何枚かは手に入るはず。そうやって手に入れた野究カードで武装すれば、そうそう襲われる事は無いっすよ。単純に、『上位ランカーのボクと同じチームになる』というだけでも、狙われる可能性はグっと低くなると思うっす」


 ((さ……佐々波。


 泣きそうな表情で、


 ((ありがとう。佐々波。お前がいてくれて本当に良かったよ。俺一人だけで、この状況に陥っていたら、パニクって、頭がおかしくなっていたかもしれない。


「いいんすよ。センセー。ボクとセンセーの仲じゃないっすか」


 ((本当にありがとう、佐々波。俺みたいな、『超絶しょーもないカス』と友達になってくれて。そして助けてくれて。俺は絶対にお前を裏切らないと誓う。


「ボクもセンセーの事を絶対に裏切らないっす」


 言いながら、心の中で、


(最初から、助ける気なんて皆無で、信頼も当然してないから、裏切るもクソもないんだよなぁ。くく)


 ドス黒い笑顔を『心の底』に隠し、


(ああ、楽しみ。これから、こいつが、どれほど無様な姿を晒してくれるのかと想像するだけで濡れてくる。こんな、『ただ顔が怖いだけのヘタレ』が、狂乱うずまく闘手の世界に飛び込んだりしたら、当然、何もできず、心身共にズタズタのボロボロになるだろうなぁ。くく……あははははは!)


 ((あ、そういえば、佐々波。


「ん? なんすか?」


 ((特待生のほとんどが闘手って事は……もしかして、上品さんも闘手なのか?


「そうっすよ。そして、上品センパイは、今まさに、スカイタワー・メジャーのMマシンを入手しようと、最上階を目指しているっす。という訳で、これから、ちょっくら挨拶に行こうじゃないっすか」


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