第11話 ずっとアホな無崎くん。
((しかし、なんで、そんな人が、こんな高校に通ってんの?
「この高校なら、『超特待』にさえなれば、ほとんど授業に出なくても高卒の資格が取れるからじゃないっすか? 上品センパイは、なんせ、忙しい人っすから」
((ほとんど授業に出なくていい? それ、どういう事?
「えぇ……超特待制度を知らないんすか? 保有している才能がすでに認められている、あるいは確実に将来認められるであろう天才だけの特権。『二年ほど前』に、学校教育法第四十六条が改編されて、高校卒業に必要な条件が大幅に変わったって話、聞いたことないっすか?」
((ぁあ……なんか、編入試験の時、チラっと聞いたような気がするかも。凄い特待生がいるとか、なんとか。いや、でも、まさか、授業に出なくていいとは思わなかった。
「天才は特別ってことっすよ。かくゆうボクもそうっす。八ヶ国語が喋れる事と、コンピュータ全般に超絶詳しい事が認められて超特待になったっす」
((まあ、そういう制度があるなら、お前も、とうぜん該当(がいとう)するだろうな。お前、異常なくらい頭良かったし。
「ボクがその気になれば、そこらを走っている車を遠隔操作して事故を多発させる事も楽勝っすよ。……え? 信じられないからやってみせろって? 最低でも子供を3人は轢(ひ)き殺してみろって? しょうがないっすねぇ。じゃあ――」
((実演は勘弁してくれ、スーパーガール。子供を3人も轢き殺すとか、100パー死刑になっちまうぜ、ベイベ。
「くく、センセーの戸惑っている顔は最高に面白いから大好きっす」
((おちょくってくれるねぇ。……まったく、相変わらず、佐々波は、ラリった女だなぁ。
「センセーも、相変わらず、ラリっているようでなによりっす」
((俺、メッチャ普通の男子高校生ですけど?
「ぃや……色々と普通ではないっすよね? とりま、すげぇアホだし、喋れないし」
((アホって言うな。失礼な。俺の成績は平均を大幅に下回っていて悲しいだけだ。
「名実ともにアホじゃないっすか。昔と変わらず、今も、ちゃんとすげぇおバカさんなんすねぇ。さすがっす。ところでセンセーは、今もハイエンドな孤高を貫いているんすか?」
((ハイエンドな孤高とか、そういうハンパな優しさで俺の『終わっているポジショニング』を濁(にご)すのやめてくれない? 逆に悲しさが増すんだよ。普通に『ぼっち』と呼んでください。おねがいします。
「まあ、なんでもいいっすけど。それより、上品センパイの事っすけど、なんなら、ボクが色々と協力してあげてもいいっすけど、どうっすか?」
((相変わらず『会話の気まぐれ力』が高ぇなぁ……てか、え? 協力って、どういうこと?
「超特待繋がりで、あの人とも一応は知り合いなんで、ボクが間に入って、センセーと上品先輩に接点を作ってあげると言っているんすよ」
((ま、マジっすか、佐々波さん。
★
創世学園の南西に位置する旧校舎。
膨大な量のツタに絡まれた、ほとんど幽霊屋敷。
現在では何にも使われていない、
この旧校舎の三階に連れてこられた無崎。
「いやぁ、ここは、いつ来ても不気味っすねぇ。センセーもそう思わないっすか?」
((それな。なんか妙に薄気味悪い。――って、うわっ、ゴキブリ。ひっ。
とビビリながらも、おそるおそる佐々波の背中についていく無崎。
((というか、なんで、こんな所に連れてきたの? こんな場所に上品さんがいるとは思えないんだけど?
という疑問の表情を浮かべている無崎に、佐々波はニっと笑って、
「ところがどっこい。あのパイセンは、今、ここにいるんすよねぇ」
((ウソつけ。こんな、なんもない廃墟みたいな場所に何の用があるんだよ?
「正確には、ここから行ける場所にいるんすよ」
「??」
「はい、到着。ここっす」
そう言われて紹介された場所は、旧校舎三階奥にある掃除ロッカーだった。
((この中にいるとでも?
「その通りっす」
((はったおすぞ。
「マジですってばぁ」
そう言うと、佐々波は、掃除ロッカーの扉を閉めているダイヤル式南京錠をカチカチやりだした。
「普通に開けるだけなら1902なんすよ」
そう言って、カチャっと開けてみせた。その中には、普通の掃除用具しか入っていない。――佐々波は、扉を閉めて、カギをかけると、
「でもでもぉ、こうやって、1871にしてから、次に、1876の順番でダイヤルを合わせるとぉ……」
――ガチリッッ!! と、空間を震わせるほど硬質な、『何か』がかみ合う音がした。
佐々波が扉を開けると、
「っっ?!!」
掃除用具や奥行きなどは一切合切なくなっていて、
『揺らめいている黒い壁』だけがそこにはあった。
((はぁ?! 何、この黒い壁?! えぇえ?!
「さあ、センセー。上品センパイに会いにいきましょう」
そう言われても、無崎は、
当然のように、身をすくめて、
一歩、あとじさりする。
((いやいや、お前……ぃやいやいや……
「どうしたんすか、センセー。……まさか、ボクが信じられないんすか?」
キラーワードを出されて、無崎はグっと奥歯をかみしめた。
昔から、無崎は佐々波に対して頭が上がらない。
この世で、たった一人、自分の友人になってくれた彼女を失う恐怖は、半身を失う絶望にも等しい。
圧倒的美少女である彼女に『下手な恋心を抱かなかった』のも、変に『その手の感情』を抱いて『友人という関係が壊れること』を心底恐れていたから。
ゆえに、『信じられないのか?』と、そう言われてしまうと、
((そうじゃない。ていうか、『それ』は『絶対にない』んだけど……
という表情しか返せない。
――無崎は、
((んー……
数秒だけ迷ったが、
しかし、
((わ、わかった。行くよ。
という表情で佐々波を見た。
――それを受けて、佐々波はニっと笑い、
「じゃあ、レッツゴー」
彼女と共に黒い壁へと足を踏み入れると、その中には、なぜか足下だけは辛うじて見える真っ暗な通路があった。
かなり長い妙な道。
一分ほど歩いて、右に折れた所で、遠くに光が見えた。
出口の光。
その光の中へ飛び込むと、
「ぅ……ぁ……ぇぇ……」
外に出ていた。
眩しい光に、一瞬だけ目がくらむ。
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