第7話 完璧ヒーロー夜城院優聖くん。


 欠点が見当たらない完璧な美青年『夜城院 優聖(やじょういん ゆうせい)』は、


「上品(じょうひん)、待ってくれ。大事な話がある」


 中庭を歩いていた長身黒髪ロングの超絶美少女『上品 里桜(じょうひん りお)』に声をかけた。

 ――上品は、夜城院の顔を見ると、面倒くさそうな顔をして、


「あ? なんなん? まさか、また勧誘ちゃうやろなぁ」


「まさに、その通りだ。オレのチームに入ってくれ。ロキを倒すには、お前の力が……ランキングトップクラスの力が必要なんだ。だから――」


「もう何回も言うてきたけど、ウチは、あんたと違って、正義とか興味ないねん。確かにウチも、ロキの事は、かなりヤバいヤツやと思うとる。けど、せやからこそ、危険をおかしてまで、アレと闘おうとは思わへん」


「金にしか……興味がないから、か?」


「そのとーり」


 右手でゼニのマークを作りながら、渇いた笑みを浮かべ、


「この世界を丸ごと買えるくらいの莫大な金。それだけがウチの望み。ウチは必ず、この世の『全部』を手に入れる。土地、燃料、技術、武力、美食、レアメタル、金銀プラチナ、エトセトラ! 世の中の価値あるもん、全部、全部、全部、ウチのもん! 命も、権力も、地位も、所詮は金次第! ウチは、絶対に、この世の全部を金で買う!」


「前にも言ったと思うが、清廉(せいれん)さは金では買えないんだぞ」


「はっ、そんなもん、もし店頭に並んどったとしても買わんわ。正義? 清廉? そんなんでは、バッグの一つも買えんやないか」


「……あのなぁ、上品。この世には、愛とか、優しさとか、金で買えないものも――」


「あるやろぉなぁ。『ゼニで買えんモンもある』そらそうやろ。至極ごもっとも。けどなぁ、ゼニで買えんもんは、往々(おうおう)にして、いらんようになった時に売れへんやろ? 愛は『やり方次第』で『金に変換できる』けど、『優しさ』なんて甘えは、基本、負債(マイナス)しか生まん。最初にハッキリ言うとくけど、ウチ、売れへんもんは一つとして必要としてないねん」


「上品里桜。お前は、『力を持つ者には相応の責任が伴う』という摂理(せつり)を認識すべきだ」


「責任って何やねん。まさか、『ロキみたいなワルモノ』と闘う事とか? それって警察とか自衛隊の仕事ちゃうん? もしくは、防衛大臣の一人息子で、将来、必ず親の後を継ぐと豪語しとるあんたの仕事」


「既存(きぞん)の行政機関では野究カードの暴力には対抗できない! お前も知っているだろう。野究カードを所持する事で自動展開されるギガロ・バリアフィールドが実弾では貫けない事も、卒業すれば、学園の外でも野究カードが使えるようになってしまう事も。――その時がくれば、ロキは間違いなく野究カードを使って世界に混乱を巻き起こすだろう。だから俺やお前という対抗戦力が必要なんだ」


「軍や司法が無力やからって、ウチに責任を押し付けるんは完全に筋違いやろ。ウチ、なんのために、アホみたいに高い税金を払ってんの? もし、ウチに押しつけてくるんやったら、今までウチが払ってきた分を全部還してくれや。まあ、仮に払い戻されたとしても、ロキと敵対なんか絶対にせぇへんけどなぁ。何度でも言ぅたるけど、ウチは正義に興味ないねん。正義では何も買えんからなぁ」


「金による売買という信用取引は、秩序という正義が執行されていて初めて成立する概念だ。しかし、ロキはその秩序を破壊すると宣言している。そして、それが出来るだけの力を有している」


「そら大変やなぁ。夜城院、頑張ってなぁ。もし、ロキが暴れて、ウチに不利益が生じたら、腹いせに、ウチがあんたを潰すで。嫌やったら、死ぬ気であいつを止めてなぁ」


「頼む、上品。本気で聞いてくれ。オレだけではロキを止められるかどうか分からない。お前の力を貸してく――」


「今日、しつっこいなぁ、なんやねん。てか、あんた、『Mマシン』を持ってんねんから、普通に勝てるやろ。なに、自分より弱い相手にビビってんねん。情けないやっちゃなぁ。あんたみたいなヘタレが防衛大臣とかなったら、日本、ほんま終わるなぁ」


「? ぉい、まさか、上品……お前、ランキングを確認していないのか?」


「あ? なんやねん、急に。……たまに確認しとるけど? 一週間に一回くらい」


 そこで、夜城院は小さく舌を打って、


「三日前の話だが……実は、ロキもM機を……『メジャー級ピッチングマシン』を手に入れてしまったんだ」


「……へぇ。ついにロキも、あんたと同じメジャーリーガーの仲間入りか? ふぅん。こうなってくると、ウチもウカウカしてられへんなぁ」


「上品。本気で頼む。ロキを潰すのに協力してくれ。M機の威力は強大だ。こうなってしまえば、君だって狩られる危険性が出てきた。君が持っている『P機(プロ級のピッチングマシン)』ではロキに対抗できないんだから。今のロキに武力で対抗できるのは現状だとオレしかいない」


「だから、あんたの庇護下(ひごか)に入れって? うーわ、この誘いって、ウチのための勧誘やったんや。うわー、お優しい。惚れるぅ。やっぱり、世界一のイケメンは格が違った。よっ。日本一」


「まじめに聞け。お前の頭があれば、今が、ほんとうに、非常に危険な状態だという事くらい理解できるだろう。もし、お前やオレがやられてしまったら、この世界に、『ロキに抵抗する術』がなくなってしまう。そうなったら、世界はあいつに壊されて――」


「なんや、夜城院。そんなに、ロキがMマシンを手に入れたんがショックなんか? ほんまに心配症のヘタレやなぁ。『悪の華』は、ロキと二階堂しかおらん小さいチームなんやから、十人以上が所属しとる、あんたの『ホーリーナイト』の方が戦力としては上やろ。それに、他の超特待連中も大概はロキに脅威を感じとる。数の暴力をふるえば、結局、あんたが勝つて。心配すな」


「上品……お前、もしかして、例の噂も聞いていないのか? 転入してきたヤクザの噂を」


「ん? ぁあ、そっちに関しては、一応、耳にはしとるで。世界的マフィアの二代目とかいうヤツやろ?」


「少しだけ監視してみたが、寒気が走った。ヤツは完全にロキ側の人間だ」


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