第4話 絶対悪を前にして、人類は、ついに完全なる一致団結を果たす。
――異常な空気のまま、ホームルームが終わり、一限目が始まるまでの短い休み時間に移ると、その瞬間、クラスメイト達はガタガタガタっと立ち上がって、無崎と対極の位置にある前側の入口ドア付近に集まった。
――そして、ヒソヒソと、
「やべぇ、やべぇ、やべぇ」
「なんなの、アレ? これ、夢? ヤクザとクラスメイトになったら、っていう夢?」
「まさか、あれも『超特待生』か? いや、まあ、確かに、条件は満たしているけれども。すでに、ある意味での『社会的な結果』を出しまくっているであろう『超一級の極道』なんだろうけれども」
「いくら、『逸脱(いつだつ)した天才』だと認められていれば、『それがどの系統に属する才能であろうと超特別待遇で迎え入れる』と公言しているからって、『その筋の人』は学校に入れちゃダメだろ。何を考えてんだ、この学校」
「お、おい、誰か……あの大魔人の事を知っているヤツとか、いる? 中学が一緒だったとか」
そこで、華村が、プルプルと体を震わせながら、
「わ、私……小学生の時、同じ学校だった」
ほとんど口を開いた事がない陰キャ女子が、いきなり喋りだした。
普段であれば、結構なユニークイベントだが、
今は、そのレア度にかまっている余裕はない。
皆、ただただ、『小学生時代の無崎の情報』だけを入手しようと耳を傾ける。
「で? で? ど、どんなヤツだったの?」
「見た目だけで判断しちゃダメだって思って、勇気出して話しかけたら……『虫が誰に声をかけていやがる。ブチ殺して東京湾に沈めてやろうか?』って脅されて……」
「発言が、まんまだな」
「それだけじゃなくて、そのあと、ウチの家に『不快だから立ち退け』って追い込みをかけてきたり、私の部屋の窓に馬の首を投げこんできたりとか、嫌がらせも散々受けて、隣街に出ていくしかなくなって……ひくっ……」
「エグぅ……ちょっとでも不快にさせたら、一族郎党容赦しねぇってか?」
「つぅか、馬の首って……どこのゴッドファーザーだよ……」
「そ、それで、私……精神的におかしくなって……転校してからも、半年くらいは、家から一歩も出られなくなっちゃって……」
「もういいよ。だいたい分かった。……見た目以上の危険な人物って訳か……やべぇな」
「冗談のつもりだったのに、マジの少年院帰りとか……最悪にも程がある」
「皆、そんなに心配するな。大丈夫、どうせ、またすぐに何かやって逮捕されるって」
「そうだな。すぐに、いるべき場所に戻されるはずだ。それまで、なんとか、殺されないよう、頑張ろう」
そこで、華村が、
「ぁ、あの……私、あの人のこと、本当に怖くて……だから、もしよかったら、学校にいる間だけでも、誰か、一緒にいてくれたら……」
怯えながら、そう言うと、そこで、
「いいよ。あーしと一緒にいな」
『カースト最上位の女子グループ』の頭をはっているギャル系女子『亜里沙(ありさ)』が、
「アレから守ってあげられるとは思わないけど、こうなったら、全員、『狼に狙われた子羊』みたいなものなんだから、せめて、数だけでも集まって団結しないと」
「……ね、ねぇ、亜里沙、私たちのグループも、あんたの所と一緒にいたいんだけど、ダメかな?」
「ていうか、男子女子とか関係なく固まっていた方がいいだろ」
「そうね。――もし、あのヤクザが暴れだしたら、男子、頑張ってよ」
「む、無茶言いやがる……ヤム〇ャに、フリ〇ザの討伐を任せるようなものだぞ?」
「全員でかかれば、押さえつけるくらいは出来るんじゃない?」
「そ、そりゃあ、素手で対応してくれるのなら、数の暴力でどうにか出来る可能性もゼロじゃないが、あのヤクザの場合、マシンガンやバズーカに火を吹かせて暴れ狂う可能性が、大いにありえるからなぁ……」
「銃刀法違反なんざ、屁でもねぇだろうな」
「銃器を使ってきた時は逃げるしかないな。とにかく怒らせないよう、近づかないようにしよう」
「それしかなわね」
「よし。一致団結しよう。あのスジモンがマッポに縄(なわ)されるXデーまで、みんなで生き残るんだ」
「うん。そうね。がんばりましょう。えいえいおー」
「「「「「おおおおおぉぉ」」」」」
円陣をくみ、肩を抱き合い、小声で気合を入れ合っているクラスメイト達。
その光景をチラっと見ていた無崎は、
(はい、またこのパターン。俺以外は全員が仲良しさんで、当然のように俺だけ蚊帳(かや)の外……はぁ、まあ、もう、慣れているから、別にいいけどねぇ)
心の中で、ボソボソと、
(しっかし、俺の人生、本当に終わっているなぁ。謎の奇病のせいで、二年近くも病院で過ごすハメになって、大事な中学時代を棒に振るとか……まあ、元から俺の中学生活なんて終わっているみたいなモンだったから別に良いけどさぁ)
そこで、チラっと華村を見る。
(てか、あの人……華村さんだよね? すっごい偶然だなぁ。親が頑張ってくれたおかげで、何とか途中入学できた高校に、たまたま、佐々波以外で、唯一、優しく声をかけてくれた女子がいるとか……まあ、でも、全然こっちを見ないって事は、俺の事なんて完全に忘れているんだろうなぁ。優しい華村さんの場合、もし、覚えていてくれたら、『久しぶり』くらいは言ってくれるだろうからなぁ。まあ、しょうがないよね。俺みたいな、『存在感ゼロの空気ボッチ』を覚えている方が難しいだろうし)
無崎は、ハァっと、深い溜息をついてしまう。
その光景を見た周囲では、また、『奇矯(ききょう)な深読み』が始まっているが、アホの無崎は、クラスメイト達が、『自分のせいで恐慌(パニック)に陥(おちい)っている』などとは一切気づかず、
(いやぁ、しかし、緊張したなぁ。あまりに緊張しすぎてチョークをへし折っちゃうとか……ほんと俺ってバカだよねぇ。絶対に変なヤツだと思われたよなぁ。自己紹介も、皆の方を向く勇気がなくて、ずっと背中向けたままになっちゃったし、噛むのが怖くて、名字しか言えなかったし。……朽矢(くちや)って微妙に言い難いんだよねぇ。まあ、でも、視線だけで助けを求めた時、先生がすぐに応えてくれたのが唯一の救いだったかな。いい先生みたいで良かった。中学の時の担任は、俺を完全にシカトしていたもんなぁ。改めて考えたら、あの教師、ひどかったな。俺が助けを求めて視線を送るたびに顔を背けていたもんなぁ――いるんだよねぇ、教師の中にもサイテーなヤツって。小学校の時のアイツとか、最悪だったし――)
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