第2話 無崎、ウルト〇マンになる。


 2話 無崎、ウルト〇マンになる。


 ――無崎の趣味は読書。

 大好きなラノベを読んでいる間だけが至福の時。


 今日も無崎は、昼休みに、静かな場所を探して、校舎裏などを散策する。

 ――良質な静寂を求めて、第七校舎の裏を歩いていると、


「くっ……ぅぬぅ……」


 そこには、苦しげに呻(うめ)きながら行き倒れている青年が一人。

 汚れたトーガを纏(まと)う、白髪の中肉中背。


 そんな『彼』を発見した無崎は、


「ぇ、何……ぁ……ぁの……」


 心配して、ソロソロと近づくものの、いつもと変わらず、精神的吃音で声が詰まる。

 どうしても『大丈夫ですか』の一声が出てこず、

 一般中学生らしく、ただただオロオロしていると、



「――運命に導かれたか。……ぉお、なんという、狂気の輝き。美しい」



 『彼』は、そんなことを口にした。

 無崎は、首をかしげて、


(ん? ウンメー? キョーキ? なにを言ってんの? 朦朧(もうろう)としているの?)


 訳も分からないまま、とりあえず、


「きゅ……きゅ、救急、きゅきゅ――」


 救急車を呼ぼうとスマホを取り出した。

 だが、電波が届いていない。

 どうしようと悩む無崎に、

 『彼』は、


「狂気に輝く者よ、聞け。私はイス人」


(イソジン? うがい薬?)


 言うまでもないが、無崎くんは頭が悪い!

 基本、頭はカラっぽで、推察力とか洞察力とか、そんなものは一切ない!


「――遙か太古に滅亡した『イス銀河』を捨て、六億年前、この『天の川銀河』に移住してきた者。大いなる種族――に、なりえた『種』の欠片。異なる銀河よりの漂流者。名前は……忘れた。五億年前までは確かに覚えていたはずなのだが、今では……」


(ぅーわ、やっべぇ……この人、バリ3の電波さんだ。……怖ぁ……)


 アホの『無崎くん』でも、『相手がヤバい』ということぐらいは分かった!


「私にも、ついに終焉の時――『コスモフィロソフィア(内宇宙の諦観)』が訪れた。あと数秒で、この『幻想の肉体』は消滅し、魂魄は『コスモゾーン(名状しがたい宇宙の魂のようなもの)』へと還(かえ)ってしまう。だが、私はまだ、我が種(しゅ)の命題である『時間の秘密』を解き明かしていない。『全て』をたくされた私が、道半ばで倒れる訳にはいかないのだ! 『時の解答』――『コスモゾーンのパーフェクトアンサ―』を得るまで……私は……終わる訳にはっ!」


「……はぁ……なるほど……」


 訳も分からないまま、テキトーに相槌(あいづち)を打った無崎に、イス人は目を輝かせ、


「共鳴してくれるか! やはり、運命は、私に、まだ戦い続けろと囁(ささや)いている!」


 天を仰ぎ、一筋の涙をこぼして、


「さあ、狂気に輝く者よ。融合の時間だ。あいにく、私のコスモは既に輝きを失っているゆえ、貴様のコスモに、私の『フラグメント(命の破片)』だけを預ける形になる。核は貴様であり、私は貴様を構成する要素の一つという関係になる」


 無崎は、『うんうん』と頷きながらも、

 心の中では、


(何言ってるか、最初からずっと、一ミリたりともわからん。もういいかな……相手するのをやめても……)


 と、思考放棄のフェーズに入っていた。

 もはや、イス人の言葉は、右から左。


「本能のノイズ、カオスの螺旋。私は背負う。黄泉(よみ)の門より超えて咎を。無限の罪を。しかし、いつか、必ず、万物のカルマは、黄金と天光に満ちた裁(さば)きを超えてゆく!」


 イス人は、無崎に右手を向けて、


「――今一度、私は、可能性と蓋然(がいぜん)性に触れる。私の時間は……まだ終わらない! アンリミテッドソウル・アマルガメーションッッ!!!」


 そう叫んだ直後、

 イス人の体が発光し、

 輝く粒子となって、






「う、うぁああああああああああっ!」






 無崎の体に吸い込まれていった。


 そして、


「……ぁ……」


 バタンとその場に倒れる無崎。

 ピクリとも動かない。


 無意識の中で、無崎は、確かにその声を聞いた。


 ――狂気に輝く者よ。

  ――貴様にたくした『可能性』は、人知を超えた創造力。


  ――神のパズルを解き明かす為の力。

   ――時を掌握する為の蓋然性。


   ――不可欠な、箱庭を創造する術。

    ――さあ、思うままに、運命を弄ぶがいい。




 ――ここからは、貴様の時間だ――




 完全に意識を失ってしまった無崎が目覚めたのは、

 それから『二年後』の事だった。


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