第5話 怪獣映画の東京タワー


 東京メトロ日比谷線。

 走行中の車内に客はいない。

 いるのはマルステッドと比較のエルの二人だけ。

「誘い込まれた……」

「フッ、お前のgiantは空から召喚している事は承知済みだ」

「それで攻略したつもり? こっちには『minimum』が――」

 そこで連続する爆発音、天井からだ。

「今だ押せ押せ押せ!」

「もうヤケクソじゃない!」

「今しかチャンスねぇんだよ!」

「魔女狩りのな!」

 現代神秘軍の部隊が煙の中から降りてくる。

「今度は数か!」

「さて見せてみろ比較のエル。お前の魔女としての力を」

 包囲されるエル。魔女は両手を上げる。

「あんた私が空から『giant』を召喚してるって言ったわよね?」

「事実だろう」

「ええ。だけどね――

――giant foot!

 岩盤が崩れ、列車が横転する。そらから巨大な足が地下まで降り注いだのだ。

 仲間への被害は全てマルステッドが引き受けたがそれでもこの被害。

「核弾頭並は伊達ではなくてよ?」

「魔女め……」

 形勢は再び逆転する。

 giantの術式を操るエルは無敵だ。

 辺り数キロを超重量で薙ぎ払う事が出来る。

 それに対処できるのはマルステッドの『世界の壁』だけ。

 残りの部隊員を攻勢に回す作戦も今は取れない。

 巨人の足が降った穴からは空が見えた。

「あら丁度いいところに♪」

 そこには東京タワーがあった。

「なにを――」

 する気だ。とマルステッドが言い切る前にエルはすぐさま行動に移った。

『giant arm』

 中空から降りる巨人の腕が東京タワーの中ほどを掴み

 もちろん辺りの街々も只では済まない。

「魔女がァ!」

「あはは! いいわねマルステッド! その調子で嘆きなさい? 私を悦ばせるために!」

 現代神秘軍の部隊に東京タワーが振り下ろされる。

 重量に重量を重ねた物質による圧殺攻撃。

 下手な概念系より恐ろしい。

「マルステッド!」

「お前ら逃げろ……あれは世界の壁でも防げるか怪しい」

「そんな」

「いいから早く!」

「クソッ! 撤退! 撤退!」

 部隊がマルステッドを残して退いて行く。

 迫る東京タワーを前にマルステッドは十字を切った。

「神よ……」

「今さらお祈り? 嗤えるわぁ」

「祈りは届くさ……絶対にな」

「ふぅん誰の教え? ご両親かしら?」

「前隊長の言葉だ――!」

 世界と少女を天秤にかけ、どっちも救うと宣言した少年のことが脳裏に過るマルステッド。

 そこへエルの下に通信が入る。

『マズいよエル!』

「またなの娘娘? 今度はな――」

『完全に逃げられた!』

 東京タワーとマルステッドの間。

 一つの人影が入り込む。

 斥力の波が東京タワーを巨人の腕ごと破壊し尽くす。

「――は?」

 一人の少年がそこにいた。

「……やはりあなたが隊長に相応しい」

「悪い。なんか待たせたみたいだ」

 現れたのは甲斐少年だった

 この時、彼の中には二つの記憶が混在していた。

 それは最初に曙星と契約した世界の自分の記憶とこの魔女と現代神秘軍が戦っている世界の自分の記憶。

 それらを咀嚼して飲み込んで今ここに至る。

「やっぱりこっちでも俺と冬城は出会っていたんだ」

「この浮かれ野郎がーーッ!!」

――giant body

 巨人の全体が虚空から現れる。

 数キロに及ぶ全容は雲を突き抜け全てを見る事が出来ない。

 しかしそれに少年が屈する事は全くない。

「知ってるか魔女、恋する人は無敵なんだぜ?」

 引力を一ヵ所に集中させる。

 それは徐々に時空さえも歪めていく。

「まさか!?」

「そのまさかだ!!」

 疑似的なブラックホールの再現。

 巨人を引力の塊が飲み込んでいく。

「まさか負ける? この私が? 真正面からの力比べで?」

「さっさと失せやがれぇ!」

 一瞬の極光と共に完全に消え去る巨人。

 此処に比較のエルは完全敗北を喫する。

 残る魔女は三人。

 対するは完全に覚醒した曙星の使徒。

 天体の擬人化とも呼ぶべき力を前に。

 魔女は狩る側から狩られる側へと移り変わっていたのだった。

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世界の終わりと君とその先と 亜未田久志 @abky-6102

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