第4話 お茶会にはお菓子が憑き物


――それはまるで何かに憑りつかれたように眠っていた。眠り姫というより、屍のよう。魔女の子守唄に期待などしてはいけない。その休暇はきっと悪夢だ。


 魔女の拠点は現代神秘軍が包囲していた。

「だいぶ削られたわね」

「もう死ぬかと思ったよ~」

「これが曙星の使徒の力……」

 地下から天井を見上げる魔女四人。そこには大穴が開いていた。

「単なる斥力と引力の操作じゃなかったの? 理論上じゃ第五封印拘束で止められたはずだけど」

「あんなでたらめな出力、封印がいくつあっても足りないよう」

 娘娘は半泣きであった。

「滅びと引き換えに願いを叶える力、そう仮定するのなら、その力は無限、か」

「それじゃ対処のしようがないじゃない」

「解析を急いだ方がいいけれど……ヴィヴィアンの子守唄がいつまで効くのかも疑問に思えてきたわね」

「いっそアンナの仮死で殺しちゃうのは……?」

 アンナは横に首を振る。

「それは問題を先送りにするだけの行為。解決ではないわ」

「それじゃあ打つ手無しじゃんかぁ」

「……かつて現代神秘連合軍に奪われた『抹消樹まっしょうき』が残っているなら、あるいは」

「まままま抹消樹!? あんなの使う気!? 街への被害は!?」

「この際、地球が救えるのなら日本くらいは犠牲にする覚悟でいく必要が出て来たのかもしれないわ」

「アンナはいっつも行き当たりばったりだよねぇ!!」

 こんなんだから現代神秘軍と魔女ノ御茶会は敵対している。

「でも抹消樹はあの大戦時にそれこそ甲斐少年に相殺されて枯れ木になったんじゃ」

「……曙星の使徒だろうと少年期ジュブナイルだろうと厄介極まりないわよね……『神秘の前借り』なんて能力。命を代償にしてるにしろ無茶苦茶だわ」

 この世界の甲斐エイスケは生まれつき、自身の寿命と引き換えにして異能力を未来の自分から引き出していた。その未来の自分とは曙星の使徒ととして世界を破滅させる自分のことである。

「でもね、エル。抹消樹は確かに枯れ木になった。でも芽が潰えたわけではないの」

「芽?」

「ええ、さてこれから奪い返しに行きましょうか、未来を」

「ひぃぃまた戦争かよぉ。私、戦闘向きじゃないんだよぉ」

 娘娘は狼狽え、エルは覚悟を決め、アンナは不敵に笑う。ヴィヴィアンは無表情を貫いたまま沈黙している。

 魔女ノ御茶会が動き出す。


 ***


 対して現代神秘軍は。

「次に魔女が動くとしたら私達の排除か、それに近しい何かだ」

「つまり我々が襲われると?」

「ああ」

 現代神秘軍の駐屯地、その全体が重い空気に包まれる。

「また魔女との戦争か」

「今度は何人死ぬかな」

「やめろよ縁起でもない」

 戦争前夜の会場に雷鳴のような詠唱が響き渡る。

 魔女が来た。

『giant foot!』

 その時、駐屯地周辺数キロに渡りクレーターが出来た。

 超重量をまともに引き受けたのはマルステッドだ。

「ぐっううう!!」

「マルステッド!」

「いいから行くぞリーダー! マルステッドなら平気だ!」

 アリアに手を引かれ、冬城はその場から去る。

「ちょうどいいマルステッド、抹消樹は今どこにある?」

「はぁ……はぁ……あんな枯れ木、もう捨ててしまったよ」

「本当に?」

「真実が知りたきゃこの『世界の壁グランドウォール』を越えてみるんだな。比較のエル」

 現代最強の防壁、世界の壁。ヘラクレスの柱の逸話を元にした断絶術式。

「ヘラクレス如きで魔女に勝とうなどと!」

「現代アレンジを舐めるなよ」

『giant arm!』

 辺り数キロが薙ぎ払われる。それら全ての衝撃を一挙にマルステッドが引き受ける。

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