第3話 曇天の向こうは何色
祈りは届く、きっと届く、それが世界の破滅を呼ぶものだとしても、届いてしまうのだ。
曇り空の向こう側、曙星は輝いている。
「多重拘束も無意味、じゃあ概念拘束は?」
「時間がかかり過ぎる。その前にこいつが目を覚ます」
「だったらヴィヴィアンにずっと歌ってもらったら~? 子守唄~」
「ふむ……非現実的だがそれが最適解かもな」
沈黙のヴィヴィアンはこくんと首肯する。
「じゃあその時間稼ぎの間に作戦会議だ。曙星の使徒と曙星との
現代神秘軍では魔女の家を囲って基地が設営されていた。
「いつかこんな日が来るとは思っていたが」
「マルステッドさん」
「ボス」
「……その呼び名、慣れませんね」
「あなたが巫女に選ばれた時から決まった事だ」
冬城とマルステッドが会話を始める。
「十年前、遊星『曙星』が現れて他天体を飲み込み始めたのがきっかけだった」
「そう、ですね」
「ブラックホールともまた違う概念天体は交信にて地球から『生贄』を要求してきた」
「……」
「そして、それに反抗した少年がいた。それが現代神秘連合軍J.U.V.N.I.Lの初代隊長――甲斐エイスケ」
そして、その少年は戦いの中で命を落とした。一つ言葉を残して。
「もう一人の俺が来る。曙星の使徒になった別世界線の俺が、そいつをどうするか、頼んでいいか?」
それが彼の最後の言葉だった。そして彼が命を落とすと同時に空に流星が駆け、この世界の甲斐少年の姿は消えた。
***
「はぁ~どうしてこんなことになったのかな」
そもそも現代神秘軍は魔女ノ御茶会の後援の下、生まれた組織だ。
「今は過去を嘆いてもしょうがない。どうにかして曙星の使徒を取り返す。それが甲斐前隊長の最後の命令だ」
「……」
「それなんですけどぉ」
一人の少女が手を挙げて発言する。
「律義に守る必要ありますぅ? だって魔女が使徒を介して曙星を倒してくれるなら願ったり叶ったりじゃないですかぁ」
どこか間延びした声。金髪のゆるふわカール。ポテチをつまんでいてやる気なさげ。
「アリア、口は慎め」
「だってぇ」
マルステッドが無言で睨みを効かせる。するとピタッとアリアは黙ってしまった。
冬城はなおも溜め息を吐く。
わかってはいるのだ。魔女たちが曙星を倒してくれるのなら、と。
しかし、それは一人の少年の犠牲の上に成り立つ。
――犠牲になるのは自分だけでいい。
そんな想いを秘めた少女は魔女の行動に反対だった。残る魔女の行動に懐疑的なメンバーと半強制的にマルステッドに連れてこられた(主にアリアなど)が今の現代神秘軍の総員となっている。
――甲斐くんならどうしたのかな。
甲斐エイスケ、曙星の使徒ではなく現代神秘連合軍J.V.U.N.I.Lのリーダーだった甲斐少年。数多の国の垣根を越えて世界の脅威である「魔女」や「曙星」と戦うため結成された現代の
それを率いた少年ならばどうしたのだろうか。少女は思案する。答えなど一つだと分かっていながら。
「戦わなきゃ」
少女は銃を取る。
六月の終わりの夜、雲間から白い月と黄金の曙星が輝いていた。
――響け、凱歌よ。轟け、カノン。世界に終わりが来ようとも、その戦旗をはためかせ。進め、進め。
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