第31話 反逆容疑
やることは変わらない。魔王はそう言った……はずだ。俺が筆頭とやらになってから数日だ。なのにこの惨状はなんだ?
「筆頭殿、これよろしく」
などとほざいて書類を俺に押し付けて行くジェイドを見てそう思った。
そもそも書類仕事はアトラナートさん達、アラクネの担当であるのだが流石に限界があるので我々四天王もある程度手伝っているのだが、ジェイドはその全てを俺に投げつけたのだ。あいつ絶対性格悪いよな。ジェイドへの軽蔑が芽生えたところで思考を辞める。
「ま、考えてても仕方ねぇ。リリアーヌ、エイジュ、手伝ってくれ」
「はい!」
「……」
――ドーーーンッ!!
書類仕事をある程度進めていた頃、訓練場の方で大きい音が聞こえた。気配的に、ギガスが訓練場を使っているっぽいが、なにをやらかしたんだ?
「少し見てきます!」
そう言って部屋を走って出ていったリリアーヌ……あいつ逃げたな。まぁいいか。そんなリリアーヌの帰りを待ちつつ書類仕事を終え、伸びているとようやくリリアーヌが戻ってきた。
戻ってきたのだが……
「なんでボコボコにされてんの、ギガスさん」
ボコボコにされてリリアーヌに首根っこ捕まれたギガスが助けを求めるような目を俺にしている。
「まて、落ち着け。何があった?」
「サクラ中将、反逆者を捕らえました」
エイジュの質問に答えるリリアーヌは殺気立っている。反逆者と言っていたな。もし仮に魔王に対する反逆が事実であればリリアーヌは大手柄であるが、相手は四天王であるギガス。事実でなければ首が飛ぶのはギガスではなくリリアーヌの方だ。
「お、オレは反逆者では無、い。こいつの勘違いだ……」
「意見の相違か。事情を話せ、リリアーヌ」
「はい。この者は自己中心的な思考により四天王筆頭であるサクラ様に仕事を押し付けました。これはれっきとしたサクラ様への反逆です」
「……」
「……」
リリアーヌの報告に、エイジュはもちろん、俺もギガスも唖然としてしまった。なんだよ、俺に対する反逆って。でもこれに関してはリリアーヌだけが悪いとは言えんのよなぁ。
多分ギガスはいつもジェイドに仕事を押し付けていたんだと思う。筆頭だからという理由で。でもジェイドの進言によって俺が筆頭になってしまった。つまりジェイド、ギルティ。ギガスもギルティ。
「おーい、ギガスゥ、ちょっとお話しようか? リリアーヌ、よくやった。お前も来い」
リリアーヌからギガスをひったくり、その巨体の頭を鷲掴みにし、引き摺るようにして俺の執務室を退出する。
「ア、ア。エイジュ殿、オタスケヲ……」
「自分の責任だろ。やってやれサクラ」
「いい加減に静まれカス」
エイジュとリリアーヌから辛辣な言葉を浴びせられたギガスはそのまま黙り込み、静かに俺に引き摺られた。
◇
「おい魔王。話が違うんじゃねえの?」
「……。なんの事だ?」
俺たちが模様替えを手伝った魔王の執務室。効率を求めたのか、尖りのない、無難な部屋になっている。ドアの対辺の方に執務に勤しむ机があり、その正面に来客用の机とソファーが用意されている。本はきちんと本棚に収納され、かつての散らかり具合は何だったのかと思いたい。
そんなことはさておき、俺とリリアーヌからの怒気を感じ取ったのか、手を止めてきちんとこちらを見て会話する魔王。
「筆頭になった途端、このカスから書類仕事押し付けられたんだが。これはあんたの教育不足なんじゃないのか?」
「余のせいか?」
「そう言ってるだろ。リリアーヌもなんか言ってやれ――え」
どうせリリアーヌはアホみたいに頭を縦に振っているはず。そう思っていたのだが、その場で正座して下を向いていた。一瞬、なにしてんのって思ったが、なるほど、吸血鬼になったとはいえ魔人の思考がの多分に残っているらしく、魔王には逆らえないらしい。
「そこの魔人は何も言わんようだな」
「それに関しては仕方の無いことだろ……」
「まあ
「近いうちに本格的に人間領への侵略を考えています。その一番槍の栄誉を与えましょう。そこで功績を挙げたならば今回のことは不問にします」
「ふむ、妥当なラインではあるな。どうだ? ギガス」
「ま、魔王様が仰るのであれば」
「じゃあ決定。ハロルドにも引くように伝えておきます」
◇
「良かったんですか? やつはサクラ様の妨害をしたと言っても過言では無いです」
「ギガスの事か? あいつは多分焦ってるだけだ。俺が真の勇者を倒しルブさんとジェイドで九星仙人を倒した。じゃあギガスの功績は?確かに真の勇者ではないこの世界産の勇者は倒してるかもだが、真の勇者や九星仙人と比べると各落ち感が否めない。あいつなりに思うところがあるんだろう。魔王軍の四天王として、どデカい功績を上げるためには力が必要だ。そのために書類仕事を筆頭に押し付けた。まぁ、書類仕事ちゃんとしている俺たちが手柄を挙げ、人に押し付けたギガスだけ取り残されているのが現状だがな」
「……。最後の一言で性格の悪さが浮き彫りになりましたね」
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