第30話 ジェイドのお願い


 ホフマン大尉がフラグを言ってすぐ、自分の元に次の戦争の情報が舞い込んできた。


「よ、横槍、ですか?」


「あぁ。現在協商・同盟の計三国は疲弊状態にある。そこを叩くぞ」


「しかし、そこまでたどり着くにはアガヌボンとアワキムの戦線を通らなければなりませんよ」


「そんな弱小国家叩き潰せば良かろう。それにアガヌボンは傭兵の聖地らしいな。傭兵国家と傭兵の聖地にいる傭兵、どちらが強いのか格の違いを見せるとしようではないか」


 やはり、この国の上層部は脳筋しかいないのだろうか。まぁ、他の人と違うやり方で力を示せばその分評価してもらえるし楽でいいですね、脳筋国家。

 それにアワキムのユーサエィ将軍を討ち取ればさらにオレの地位は上がる。そうすればサクラ中将の恩に報いることが出来る。


「そうですね。では戦の準備をしましょう」


「そうだな。それにしても君は近接戦が得意な割にいつも身体を守るようにローブを着ているな、なにか理由でもあるのか?」


「い、いやぁ……」


「まるで伝説の吸血鬼のようだな。ハハハ!」


「――ッ! そ、そうですかね」


「フッ、冗談だ。本当は魔道具で出来たローブなのだろう? 物理攻撃を軽減するとか、な」


「そ、そうです! 魔道具のローブなんですよ~。いや、ホント、吸血鬼なわけないじゃないですか~。それじゃあ準備があるので失礼しますね!」


 危ない危ない危ない。あれは冗談なのか? 確信持っているのか? わからんがあの人には近づかないようにしよう。



「吸血鬼、ねぇ」


 後ろでそうつぶやく上司の声すら聞こえないほどにハロルドは焦っていたのだった。


 ◇

 side:サクラ


「はぁ、魔族なんだしもうちょっと悪役っぽいことしてぇよなぁ」


「悪役ですか?」


「そ。俺の中の悪役は女神なんだが、客観的に見たら悪役は俺だろ。もっと"ぽい"事したいよな。疫病流行らせたり人族の中から裏切り者出したりさ」


「裏切り者なら、ハロルドがその役をになっているじゃないですか」


「わかってないなぁ、リリアーヌ。あいつは元からこっち側の人間だろ。向こう側の人間をこっちに引き込んで裏切らせるのがいいんじゃん。ハロルドはそろそろアガヌボンとアワキム落としそうで、俺の推薦とはいえルブさんとジェイドが九星仙人倒しちゃうしさ」


 そう、ハイアットの最後の希望である九星仙人、地球のテルースはあっけなく殺された。まぁ、ジェイドさんなら手間取らないと思ってはいたが、予想以上の完勝だったらしい。無傷でテルースの首を持ってきた時は流石の俺もビビった。「デック殿が雑魚たちを相手してくれていたからですよ」なんて言ってたけど、あれほど余裕ならジェイドのところの部隊だけで行けたよな絶対。


 ジェイドの活躍でハイアットは個による戦力を失い、協商側は戦力を大幅に下げた。それにより同盟側の反撃が始まった。押して押されての戦いが繰り返される中でお互いに戦力は消耗し、民たちへもその影響が出始めている。

 まじでいつまで戦うんだよって思うけど、あと半年くらいは全面戦争続けてて欲しいよね。


 魔王城の訓練場にある休憩スペース的なところでそんな話をしていると、客がやってきた。


「おや、サクラ殿と最近よく聞くリリアーヌどのではないか」


「お、ジェイドさんじゃないですか。急にどうしたんですか?」


 ジェイドを見るやいなやリリアーヌは椅子から立ち上がり俺の傍に控える。

 俺と二人の時は着席を許可しているが、他の四天王の前で副官程度が座るなどありえない、らしい。なんか貴族の人間みたいだな。


「実はサクラ殿に折り入って相談があるのだが」


 どうやら長い話になりそうだ。と、思っていた俺が馬鹿だった。

「ジェイドさんのお願いなら全然聞きますよ」なんて言ったばかりに「それでは四天王筆頭の座を貴殿に譲りたく思う」なんて言われてしまった。


「はぁ~!? 四天王筆頭を譲る? ジェイドお前アホなんか? なんで自分が四天王筆頭を名乗ってるか考えたことある?」


「りゅ、竜人という珍しい種族かつ強い種族であるため筆頭にいるだけで人間に対し抑止力になるから、であるな」


「そうだ。それがわかっているなら今後とも四天王筆頭を続けてくださ――」


「それならサクラ様の方が適任では?」


 俺の言葉を遮るようにリリアーヌが言葉を被せてきた。不用意に口を滑らせたためか顔を青くし、口を押え「ごめんなさいごめんなさい」と謝っている。


「で、あるな。吸血鬼などと言う、過去、最も人間を恐怖に陥らせた最強の魔王ペーターと同じ種族と言うだけで価値がありますな」


「そんなこと言うならジェイドさんだって。先代魔王は竜人族。多分ジェイドさんの血縁っしょ。ここは譲れないっすね」


「では魔王様に判断を仰ぎましょうか」


 まじか。ここまで事を大きくする必要あるのか?

 普通に考えてジェイドが筆頭の仕事をやり続ければいいだけなのに俺に押し付ける理由はなんだ? 俺が考えすぎてるだけか?


 まぁあの魔王ならジェイドの方が相応しいときっちり言ってくれ――


「いいだろう。 筆頭であるかそう出ないかなぞ、序列に過ぎん。やることは変わらないし好きにしろ 」

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